狂気を運ぶ暴雨

第1話 1/2

「私は何もしておりません」

「なら、何故意識が戻らないのか!」

女性はうつむいたまま話した。

「今、エドウィンさんは、聖なる欠片と出会いました。
神の力を受け入れているのです。明日の朝になれば、いつもと同じく眼を覚ますでしょう」

「聖なる欠片?神の力?一体何を言っているのか!事実を話せ!」

「私は真実だけを申し上げています。
娘とエドウィンさんは、主神オンの気運が宿っている聖なる欠片と出会い、主神の力を自分の体に受け入れているのです。全ては神の意思です」

執事が男爵の耳にささやいた。

「ご主人様、彼女は町の中では魔女と呼ばれています。
娘はライラックという子ですが、町からは遠く離れて生活しているのです。
噂によると、彼女はおかしなことを言い、呪いをかける力があるそうです。
もしや、お坊ちゃまにも呪いをかけたのでは・・・」

男爵はエドウィンを抱きしめ、ドアに向かいながら話した。

「息子は連れていく。もし、明日の朝になっても息子の意識が戻らないときは、君にその罪を問う」

バルタソン男爵はエドウィンを連れて自宅へ戻った。
バルタソン婦人は、意識の無い息子を見て、耐えられず気を失ってしまった。
男爵は朝までベッドの隣で息子の様子を見守った。
幸いなことに、翌日息子は意識をとり戻し、特に異常はみられなかった。
エドウィンは山で少女と遊んでいる途中、不思議に光る欠片を見つけ、拾おうとした瞬間から何も覚えてなかった。
男爵はエドウィンにはもう忘れるように言いきかせ、誰にも知らせず黙っていた。
そのまま、静かに過ぎさってしまうものと思っていたが、
村人の誰かが、彼女を魔女として通報したため事件が大きくなってしまった。
大神殿は彼女を魔女と判断し、バルタソン男爵に彼女を火刑に処すように命じた。

「もしかすると、彼女の話は事実だったのかもしれない…エドウィンは神に選ばれたのかも…」

人の運命は自分が作っていくもので、親が止めようとしても止められないことだと自分自身につぶやいた。
真実を追究していくのが息子の運命なら、息子が行く道を静かに見守ることが親の役割であろうと…


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