狂気を運ぶ暴雨

第11話 

高い丘の上から見下ろすアルマナ荘園の周りはオークでうめつくされていた。

「なんてこと…」

エドウィンと一緒にアルマナ荘園に向かったトリアンは、見下ろした光景に恐れを感じた様子だった。
エドウィンがトリアンのその様子を見て話した。

「今からでも帰ってください。ここは危険すぎます」

「いいえ、アルマナ荘園には我々エルフも多くいます。私にも出来ることがあると思います」

トリアンが考えを変えることはなさそうだった。
エドウィンと一緒にアルマナ荘園に派遣された聖騎士の数は約30名程度で、指揮をとっているのは女性の騎士、セリアだった。
エドウィンが彼女と直接会ったのは初めてだが、聖騎士の中でも剣の速さで有名な彼女の噂は聞いていた。
噂によると彼女の剣は速すぎて、その刀身は見えず、風を斬る音だけが聞こえるそうだ。
セリアはアルマナ荘園に向かい、大きな声で話した。

「アルマナ荘園を守る為には城内に入るべきだ。
我々は馬に乗ったまま、西側の壁際にいるオークたちを抑えながら中に入る。
必ずまとまって動く必要がある。少しでもばらばらになると全滅する可能性もある」

セリアの説明を聞いた聖騎士たちは素早く隊列を整えた。
セリアが先方にたち、城壁に向かって走り出した。聖騎士たちは隊列を維持しながら城壁に近づいた。
いきなり現れた聖騎士たちに慌てたのか、オークたちはまともな反撃もせずうろうろと下がっていった。
ようやく彼らは西門に着き、アルマナ荘園の中に入ることができた。
セリアは馬から下りて、剣を高く上げながら叫んだ。

「神に献身し、国王に忠誠をささげ、民を保護することこそ、我々聖騎士の義務!
さあ!行け!デル・ラゴスの聖騎士たちよ!聖なる力で暗黒の存在を片付けろ!」

エドウィンと聖騎士たちは剣を高くささげ、大きな声をだしながら気合を入れた。
騎士たちは城壁の上に上がり、魔法師に補助されながら城壁に上がってくるオークを退治した。
エドウィンもトリアンの援護の中で、オークたちを片付け続けた。
エドウィンを援護していたトリアンは今の瞬間が以前にも見たことがある光景のような気がした。

‘似た経験をした事があったかしら?…ないと思うけど、何故…こんなになれている気がするんだろう…’

トリアンが一気に真っ白になった。
クレア工房でオルネラと一緒に過ごしている時に見た夢とすごく似ていることに気が付いたからだ。

‘あの時の夢は…予知夢?!思い出して!思い出さなくちゃ!城壁が崩れていたわ…何処から…?’

いきなり‘ドカン’という音と同時にアルマナ荘園全体がうなるように揺れた。
そして南側の城壁がひび割れ始めた。
魔法師たちは全ての力を出し切って、防御魔法を発動した。
しかし、敵の数は多く、また強かった。
魔法の防御戦が崩れ始め、城壁は完全に崩れてしまった。
埃で真っ白になった視野の向こうには血に飢えたオークたちの姿ばかりだった。
それが、アルマナ荘園の最後の姿だった。



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