第二章 神を失った世界

第5話 1/2/3

親友がほぼ駆けつけるような歩き方でバラックに入ってき、クレムは眉をひそめた。
ナトゥーはクレムを睨み付けながら聞いた。

「ダークエルフの使節団が襲われたって?」

「そ、生存者が警備隊に知らせに来たんだ、もう生存してはないけど」

「どういうことだ?」

「使節団の使いだったそうだが、怪我をしたが、死んでるふりをして逃げられたそうだ。
フロイオン・アルコン卿も逃げられたようだから探すことを頼んで、それからすぐ息を引き取った。
捜索隊を送ってフロイオン卿を探してはいるが、まだ特に連絡は入ってない。」

去年の冬、フロイオン・アルコンは神殿前の広場でナトゥーにこう言った。

『遅かろうが早かろうが、この大陸は戦争に巻きこまれるでしょう…いずれ私達はモンスターにではなく、お互いに向かって剣を振るうことになるかもしれません…』

その時のことを思い出したナトゥーは顔の表情を崩した。

「襲った奴らの正体は?」

「死んだ使節団の使いは、暗くてあまりにもいきなりだったから誰なのか分からなかったって言ってた。
そいつらはヒューマンの言葉と同じような言葉を使ってたという情報ぐらいかな」

「逃げたフロイオン・アルコンを探さないと奴らの正体は特定できないっていうことか。」

二人はほぼ同時にながい溜息をついた。
国境の近くで起きた事件ではあるが、ジャイアントの国ドラット内で起きたことだ。
襲撃に対応できなかった警備の不備への責任はジャイアントが取らなければならない。 
この地域の警備責任者のクレムはむしゃくしゃしてきて、頭をがりがり掻いた。

「困ったことになったな…フロイオン・アルコン卿だけでも無事じゃないと」

「心配ばっかりしている場合じゃないんだ」

ナトゥーは入った時と同じぐらいの早さでバラックの入口の方へ歩いた。
ドアとして入口に垂れてある厚い毛皮を手で持ち上げ、彼は言った。

「こっちの兵士を動員して捜索隊を増やそう。
そのダークエルフの貴族を探すのが急務だな、何よりも」

ナトゥーがバラックを出たから、クレムが悲観的に呟いた。

「…追っ手に見つからずに生きている場合のことだ」


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