第三章 因果の輪

第5話 1/2/3

暖かい風が吹いてきて金色に実った小麦を揺さぶる、平和な午後。
プリアの町の市場にはいつものように色んな品が販売され、人々には活気が溢れていた。
綺麗に磨いた石の床に2つの輪のついたボードに乗って子供達が速いスピードで過ぎていく。
そのせいでほこりが舞い上がって商売をやっている大人達はいたずらな子供達をしかっていたが、子供達は笑いながら舌を出すだけだった。
怒っていたハーフリングの大人達は溜息をつき、やがて笑ってしまう。
全てが平和、そのものだった。
ここは発明品で有名な町。
そのため珍しい品を購入するためにわざわざ遠くから来ている人も多い。
一番込んでいる場所は機械販売店や色んな工房がある城壁の端っこの地域で、特に中央広場はいつも人々で込んでいた。
その他は農場などの閑散な地域が多い。
人間の姿をしたフロックスがこの町に着いたのは2日前だった。
2日間何も食べずに陰に身を隠して、人々の姿を観察しながら過ごした。
彼は自分の赤い瞳に、生き生きとした活気溢れるハーフリングの姿を1つ、2つずつ刻んだ。
彼がこんな意味のないことをするのは、この町はロハが壊せと命令したその町であるためだ。
しかし彼が来たのはこのハーフリングを助けるためでもない。
神が人間の生にかかわることはできない上、フロックスが人間を助けようとしても、ロハと他の神が力を合わせて大陸の滅亡に励んでいるなら、勝算のないことだ。
フロックスはただロハの行動が気に入らなかっただけだった。
ここに来ても刹那の瞬間に過ぎない人間の生を、彼らが生きる価値があるのかどうか自分でも分からない。
もしかしたらこのまま人間が滅亡しても別にいいので?
こんなことを考えている自分の矛盾にフロックスは苦笑いをした。

自分より、はっきりした意志や意味を持って行動するロハの方が素直なんじゃないか。
俺は何しにここへ来たんだろう。
フロックスは自分が持っている正義を疑い始めた。


「おい、そこの坊や!」

ある老人が彼に話しかけてきた。
フロックスは日差しが眩しくて顔をしかめながら上の方向を見上げた。
老人はちりちりとしたひげや膨らんだお腹のハーフリングだった。
老人の後にたくさんの人々が行き来している。

「何じゃ、まだ死んでない?」

「何の話だ」

フロックスの言い方を老人は気にしないようだった。

「君が昨日からここにいたのを知っとる。だが何も食べてないから死んでもおかしくはないと思ってな。苦労なんか経験もないような顔をした坊やがここで何をしとる」

「お前には関係ない」

フロックスはめんどくさいと思ったらしく、目をつぶった。
しかしずっと自分を見つめる視線を感じて目を開けてしまった。
にっこりと笑っているハーフリングの老人の顔が目の前にいた。

「さあ、起きるんだ」

何を言ってるのか、この爺は。

「ちょうどうちに人手が足りないところだった。君は食べ物を得るために働いてもらおう」

老人の話にフロックスは呆れたっていう顔をした。


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