第四章 隠された真実

第8話 1/2/3

「旅立つ前の貴公であれば、偉大なるドラゴンの末裔ハエムは貴公を薦めなかった。
しかし今の貴公はその時とは違う目をしている。
外でなにがあったのかは知らないが、貴公はそれで何かを悟ったのだろう。
偉大なるドラゴンの末裔デカンが生き残るためには多種族と力をあわせる必要があるのだと…
心底では悩んでおるが、偉大なるドラゴンの末裔ハエムと同じ考えをしている目をしている」

キッシュは一歩下がってハエムを見つめる。
彼はいつからキッシュを監視していたのだろう。
どうやってキッシュの目つきから考えを読み取れたのだろう。
何のつもりでキッシュに近づいたのだろう。
何でキッシュに自分が薦めたということを知らせるのだろう。
キッシュの頭の中は縺れた糸のようだった。

「キッシュを見つめていたのだ」

「結果的にはそうなったが、悪意をもってそうやったのではない。
貴公の目を見たのはすごく偶然だったのである。
アティヤの実家に行くとき、誰かを待っている貴公を見たのだ。
深く考え込んでいた貴公の目からなんらか尋常ではない何かを感じ、それ以後貴公を慎重に察知するようになった。
機嫌を損ねたら申し訳ない」

嵐の目ハエム。
思い出せば、彼は自分の業績と比べてとても静かな人物であった。
カルバラ大長老やその周りの長老たちがデカン優越性を過信し、ダンとの休戦を終わらせ、完全に押し潰すべきだと騒がしくしているのは噂でよく聞くが、ハエムがどんな話をしているかに関してはまったく聞いたことがない。
さらには、彼がダンとの交流を担当する代表であるにも関わらず、彼はカルバラ大長老の休戦破棄論に何の反応も見せなかった。
反対も賛成もしなかった。
彼はただ、国王の命令に応じ、黙々と自分の仕事をやり遂げるだけだった。
彼を信じていいのだろうか?

「貴公を信じてもいいだろうか」

「偉大なるドラゴンの末裔ハエムを信じなくてもよい。
偉大なるドラゴンの末裔デカンの未来のための、貴公自身の考えは疑わないでおくれ。
そういう風に考えたって偉大なるドラゴンの末裔デカンやブルー・ドラゴンアルメネスへの裏切りではあるまい。
時には多数と反対される少数の意見が正しいこともあるのだ…
この話がしたくて貴公を呼び寄せたのである」

キッシュはあからさまにハエムの目を見つめる。
彼の瞳は何の隠すこともないようにまっすぐキッシュの目に向いている。
何の揺らぎもない銀色の瞳。
こんな目をしている人なら信じていいような気がした。
キッシュはまっすぐハエムを見つめてから、顔を海に向け、ゆっくりと話す。

「偉大なるドラゴンの末裔デカンの力だけでは神に対抗できないと思ったのは、想像もできない最悪の光景をみたからである。
悪夢だったと思いたい、そういう光景をこの目でみた…
神の下僕として育てられているドラゴンの末裔たちを…
偉大なるドラゴンの末裔キッシュは見た」


・次の話に進む
・次の章に進む
・前の節に戻る
・前の話に戻る
・前の章に戻る
・目次へ戻る