第五章 レクイエム

第5話 1/2/3/4

「むしろジャドールのお陰でイグニスは強くなるはずだよ。
デル・ラゴスの2代国王であった、ペルケン・デル=ラゴスの場合は、美女たちとの享楽にふけていたせいで弟に王座を奪われたが、カノス・リオナンとジャドールはちょっと特別だね。
カノス・リオナンの貪欲とジャドールの知略がよく噛み合っている。
ジャドールをただの情婦と思うのは見縊りすぎることだよ」

ナトゥーはヒューマンの歴史にも詳しいベロベロの知識に驚きながら、本当に彼がただの宝石細工職人に過ぎないかという疑問が起きた。

「他国の話はこれくらいにしておいて、こうやって合ったのも縁だしな、お互いについて語ってみないか?
ジャイアントとハーフリングがそんなに仲良かったわけでもないからお互いよく分からないことも多いだろうし、知っていたとしても先入観に隠されていたことも多いだろう」

「俺は別に知りたいことなどありませんが…」

「そうかい?
ワシはおぬしに聞きたいことだらけなんだけどな…
ならおぬしはワシの聞くことに答えだけしっかりしてくれよ」

ナトゥーはベロベロの終わり無く続くようなおしゃべりには敵わないと思いながら頷いた。
だが、ベロベロは質問より、自分のことについて語るほうが多かったので、ナトゥーは黙ってベロベロの身の上の嘆きを聞くだけだった。

「…で、一ヶ月も悩んでトパーズとルビーで子供の頭くらい大きいブローチを作って納品したら、そのダークエルフの貴婦人の顔があまりにも喜びすぎでな。
その後ワシはダークエルフの貴族様の注文を受けて、アクセサリーを作ったらお金持ちになったんだ。
ワシの名は段々有名になって、ダークエルフ王室で使われる家具やティーセットも作ることになってさ。
だが豪華絢爛な物を作れば作るほど、何だか嫌になったのだよ。
それで、偶然にあるダークエルフ貴族の剣の柄を作ることになったのだが、そのときやっと気づいたんだよ。
やはりワシには武器を飾る宝石細工のほうが似合うとな。
それで、最後の注文だけ済まして、アクセサリー職人は辞めようとしたんだが…
その最後の注文のお陰でこの有り様だ」

「家族の方は、あなたがここにいるのを知っていますか?」

「いや、もう半年も過ぎたのだ…
イグニスに行く途中モンスターに襲われて死んだと思っているんだろう」


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