第六章 嵐の前夜

第1話 1/2

俺にそんな力を与えると言うのなら、彼がどこの誰なのかはどうでもいい。むしろ悪魔だとしても構わぬ。欲するものは何でも差し上げよう。たとえ俺の命を欲するとしても、喜んで差し上げよう。

「心に沁みるね。しかし残念ながら、わらわはそなたの命など必要とせん」

何?貴様は…悪魔か?

「そんな下品な精霊と同じにしてもらいたくはない。わらわにはそなたの命など要らぬ。だが、わらわにそなたが忠誠を誓うのなら、一つ提案しよう」

俺の中に忠誠心などあるかどうか分からないが、俺に全てを終わらせる力を与えてくれるなら、どんな手を使ってでもその忠誠心というものを作ってでも捧げよう。

「その態度が真に気に入った。我らとの取引に必要な儀式を始めよう。そなたの名前は?」

俺に名前などない。ただ、いつからか黒い顔の異邦人という意味の`ドウガル`と呼ばれていた。エルフからも…ダークエルフからも…俺は異邦人に過ぎなかった。俺の中にどんな種族の血が流れていようと、俺は皆に異邦人として扱われていたのだ。

「恐ろしいこと。エルフとダークエルフの血が混ぜられて、こんなに醜い存在が生まれるとは。もっとも美しい二つの種族の結合が、これだけ想像もできぬ結果を齎すと、誰が予想しただろう。だが、これからは全てを忘れるがよい。

そなたはわらわの力によって、生まれ変わるのだ。全てを惑わせる美しさと破壊のための力を持つ、わらわの忠誠なる存在として。これからはそなたをマーキュリーと呼ぼう。神の使者…マーキュリーと。目覚めよ、マーキュリー・デ・エドネ!」


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