第六章 嵐の前夜

第11話 1/2/3/4/5/6

その時、後ろに怪しい気配を感じて、短剣を引き出しながら後ろを振り向いた。

10歩離れたところには白くて薄いベールを被ったデカン族の女性が座っていた。地面まで広がったベールと女性はうつむいているため、顔は見えなかった。鞘に短剣を収めようと思ったが、こんな場所に女の人が一人で座っていることは怪しいと思ったので短剣は握ったまま彼女に近づいた。

彼女は両手を合わせたまま、少しも動かなかった。一歩ぐらい離れている所で膝をつきながら彼女に声をかけた。

「…こんな所で何をしているんですか?誰ですか?」

キッシュの声が聞こえなかったのか、うつむいたまま何もしゃべらない。

しばらく待ってからもう一度聞こうと思った瞬間、彼女が口を開いた。

「もう…私のこと…忘れましたか?」

その声が聞こえた瞬間、短剣を握っていた手が震え始め、キッシュの顔は真っ青になった。長い間忘れようとしたが、一瞬も忘れることができなかった声だったからだ。

「そんなはずが…」

立ち上がろうと思ったが、縛られたように体が動かなかった。

「もう…忘れてしまったんですか?…私のこと…」

彼女はゆっくりと顔を上げ始めた。キッシュにはそれが永遠のように感じられた。彼女が完全に顔を上げ、その瞳と目が合った瞬間、キッシュは心臓がちぎれるような痛みを覚えた。

青く光る肌に夜の海のような青黒くて長い髪の毛、ルビーのように赤い瞳、バラ色の唇…ベールから見える彼女の顔はこの世のものじゃないようにきれいで美しくて、キッシュはもっと辛かった。


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