第七章 破られた時間

第5話 1/2/3

「オルネラのお父さんはペルソナに変わっていました…オルネラは目の前で、ペルソナになったお父さんがお母さんを殺す瞬間を見て…後で気が付いたオルネラのお父さんは、自分の手で妻を殺したという絶望感と娘を守るという思いで自ら命を絶ったのです…」

「なんて事…」

ジェニスの顔が白くなった。トリアンの声はすすり泣きに変わっていた。

「その全てを…オルネラは見ていたのです…」

トリアンが泣き出した。高い難易度の魔法だが、患者の心を治癒するには一番効果的だと言われている‘夢覗き’は、夢をみている本人の全ての喜怒哀楽を覗いている人も共有してしまうということが一番の特徴だった。

副作用とは言えないが、患者が苦しんでいる場合には治癒師も患者と同じ苦痛を感じる事が多かった。だから、治癒魔法はその効果が優れているのにもかかわらず、ほとんど使われることがなかった。

トリアンは特に‘夢覗き’に才能を見せたが、この治癒魔法を教えてくれた師匠は彼女に‘夢覗き’で‘感情の洪水’に巻き込まれないようにと助言をしてくれた。

トリアンはその当時、師匠が言っている‘感情の洪水’が何であるか理解できなかったが、オルネラの夢を見てから初めて‘感情の洪水’に気をつけろという意味が分かるようになった。

親を亡くした悲しみ、父親が母親を殺したという衝撃や怒り、そして自分は何もできなかったという絶望感など、オルネラの意識全てがトリアンにも感じられた。

トリアンはとめどなく涙を流して、また流した。ジェニスはトリアンを抱いたままむせび泣いた。二人がやっと涙を止めて感情を落ち着けた。


・次の節に進む
・次の話に進む
・次の章に進む
・前の節に戻る
・前の話に戻る
・前の章に戻る
・目次へ戻る