第八章 夢へと繋がる鍵

第1話 1/2

今生々しく感じられる、これはエドネの気に間違いない。
ロハに攻撃されてから神の力が弱くなったせいで、エドネの気にめまいがするくらいだ。近づくとどんどん強くなるエドネの気で倒れそうになったが、フロックスは歯を食いしばって一歩一歩を踏み出した。

洞窟から離れてしばらく歩いていたら、湖にたどり着いた。エドネの気は、湖の向こう側から流れてきているようで水面が激しく揺れていた。
顔を上げてエドネの気が流れてくる方を見ていたフロックは急に地面に伏せた。

湖の向こう側にはセントールウォリアーが見えない力に首をつかまえられているようで、足元が空中に浮いていた。セントールウォリアーは自分の首をつかんでいる見えない敵を払う為もがいていたが、びくともしなかった。当分の間、もがいていたセントールウォリアーはいきなり血を吐いて首が折れてしまった。

「今回はちょっと時間がかかったな」

フロックスは声が聞こえる方向に視線を移した。セントールウォリアーの死体からちょっと離れた所に誰かのシルエットが闇の中から浮かんでいた。
月の光を隠していた黒い雲が風に流れていくと、声の主が姿を現した。フロックスは、自分の目を疑ってしまった。闇の中から現れた存在は、
頭から足元まで全てが真っ白だった。まるで雪で作られた彫像のように…

今まで見たことのない純白の存在は、美しい顔だったが何故か気持ち悪かった。声だけを聞いた時は男性だと思っていたが、顔をみたとたん、男性か女性か分からなくなった。本来の色を何かに奪われたような不自然に白い存在が、体につけているのは真っ黒いマントだけだった。真っ白い髪の毛は風に吹かれて夜空で踊っていた。

彼は白い手を伸ばし、セントールウォリアーの死体を指差していた。ゆっくり手を曲げると、空中に浮いていたセントールウォリアーの死体が彼の指示で滑るように動いた。
正体不明の白い存在は何かを探しているように、自分の目の前まで死体を移動させた。

セントールウォリアーの胸の部分をじっくり見ていると、いきなり手を伸ばしまっすぐ死体に手を突き刺した。セントールウォリアーの死体から青い血が噴き出した。全身青い血だらけになったが、すこしも気にならないように、更に手をセントールウォリアーの体の奥まで入れて何かを探っていた。

死体の胸を破り、中に入っていた手は光る欠片を握って出てきた。手に握っていた光る欠片を確認し、彼の顔に微笑みが浮かんだ瞬間、セントールウォリアーは大きな音を立てながら地面に落ちた。
そしてエドネの気も消えてしまった。

すると、セントールウォリアーの死体から探り出したものが主神オンの欠片だとわかった。エドネの気で隠れてしまっていた主神オンの欠片を感じて、フロックスは息苦しかった体が楽になるのを感じた。

「そこで何をしていますか?」

セントールウォリアーの血に染まった正体不明の存在はフロックスが先ほどから身を隠れていたのを知っていたように平然と言った。フロックスは警戒しながらもゆっくり立ち上がった。

「何者だ?どうしてお母さんの気を持っているんだ?」

彼はゆっくりとフロックスに近づいてきた。後一歩近づくと鼻と鼻がぶつかりそうな距離まで近づいてから彼は止まった。

「私が答えられるのは、あの方が私をマーキュリー・デ・エドネとお呼びになることだけです。」

フロックスは混乱した。

‘マーキュリー・デ・エドネ…エドネの声を伝えるもの…お母様の声を伝える存在…’

「お母様…母神エドネはどこにいらっしゃるのか?
お母様はお前に主神オンの欠片を集めさせているのか?」

急いで聞いているフロックスの質問に、彼は首を振りながら余裕そうな微笑みを浮かべながら答えた。

「今は何も申し上げることができません。いつか時がくれば再会できるでしょう。その時すべてを教えて下さるはず」

「俺は火を司る神、フロックスだ!俺の声に答えろ!」

フロックスの目は怒りで光った。しかし彼は何の動揺もなく静かに答えながら少しずつ透明になり始めた。

「分かってします。しかし、私が従うのはあなたではありません。私が従うべき存在はたった一人、エドネ様…」

話が終わる頃にはもう純白の存在は、フロックスの目の前からは消えていた。


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