第八章 夢へと繋がる鍵

第2話 1/2

ささやいているような切ない声がかすかに聞こえる中、目が覚めた。どこかで聞いた事がありそうな、懐かしい声だったけど、思い出せない。
本当に変な夢だったと思いながら顔を上げて正面を向くと、大きな湖の上に作られた屋根の下に試合の監督官とドビアン、そして大長老が座ったまま、自分が来るのを待っていた。キッシュと視線が合ったドビアンは驚いたようだったが、すぐ目をそらした。

「いらっしゃいませ。キッシュ様、ハエム様」

監督官がキッシュとハエムに挨拶をした。キッシュも丁寧に監督官に挨拶をして自分の席に向かった。監督官はキッシュが座るのを確認して、二回目の試合について説明を始めた。

「二回目の試合は、呪いまの塔に隠れているアバドンを先に捕まえた方が勝ちです」

「呪いの塔にいるアバドン?」

ハエムの顔に緊張が走った。千の顔を持っていると言われるアバドンは地獄そのものだと呼ばれている古代の悪魔だった。ハエムの顔が固くなっていた反面、大長老の顔には余裕の微笑みが浮かんできた。一回目の試合でキッシュが勝ったことを聞いた大長老は、自分がもっと積極的に協力していれば…と、悔しさの中で決心したのだ。

‘二回目の試合が悪魔を捕まえることなら、既に我々の勝ちだ。アドハルマは悪魔の魔法については最高だぞ。
神様が我々を手伝ってくれるんだ’

大長老とハエムの表情が変わるかどうかなど関係なく、監督官は話し続けた。

「剣術と魔法の実力を競う為に設けられた試合でありますので、必要な武器と防具は各自で準備をしてください。
今日の夕方、2人には呪いの塔に入ってもらう予定です」

監督官の説明が終わってからキッシュは何も言わずに席から立って、他の人々に挨拶をして出てきた。ハエムも急いで大長老とドビアン、監督官に挨拶をしてキッシュの後ろを追った。

「キッシュ様。呪いの塔についてご存知ですか?」

「はい。昔、主神オンによって古代の悪魔が封印された場所ですよね。主神オンが消滅した後、封印された器が大地を破り、その姿を現した。
今呪いの塔と呼ばれているものがそれですね」

「よくご存知じゃありませんか。それなのになぜ平気なのですか?今回の試合は前回とは比べられないほど危険です。命の危険すらあるかもしれないです。」

キッシュは足を止めて振り向いた。遠くに見える厚い雲の先に黒い塔が見える。

「俺は目の前で、悪魔のせいで愛した人を失ってしまいました。今回の試合は復讐できる機会だと思います。そして…」

また歩き出しながらキッシュは落ち着いた口調で話した。

「本当に怖いことは命を失うことではありません」

ハエムはキッシュの答えを聞いた後からは何も言わなかった。死ぬことが怖いことではないのが分かっているのなら、キッシュは今回の試合でも勝利できるだろう。なぜか不安な気分が収まらない。監督官から二回目の試合について説明を聞きながら、ゆっくり微笑んでいた大長老の目が気になる。

デカン族の間でカルバラ大長老は学識と人徳がある人としてみんなから慕われている。
上品な言行で人々に接しているフェルデナントにとってもいい助言者として活動しているので、デカン族から好まれていた。

ハエムは何故か彼が仮面を被っているようにみえたのだ。
カルバラ大長老に個人的にぶつかったこともなく、彼が何か悪い行動をしていることを
目撃したわけでもない。しかし何故か彼の行動の全てが偽りのものにしか見えないのであった。

カルバラ大長老が偽善者に見えるのは初めて対面した瞬間からだった。ダン族と平和協議をする上でダン族の族長と会う為、国王の間に入った時
初めて噂のカルバラ大長老と会った。初めて会った瞬間から、何か気持ち悪さを感じてしまった。まるで大柄の大人が、幼い少女の服を着ているかのような感じだった。

自分が長老になってから、大長老の彼と出会う機会はもっと頻繁になったが、親しくなれず、逆に段々一緒にいると何かが気に障るようになった。彼が偽善者だと確信を持つようになったのは、彼がデカン族の優位性について話をするときだった。

「我々は主神オンが直接作った生命体から生まれた存在です。だから下位神たちが作った創造物と比べるのはあり得ないことです。我々の母体であったアルメネスは、下位神の創造物からは尊敬の対象でした。そんな下級の生命体と我々が手を結ぶ必要があるでしょうか?ドラゴンとの戦争で下位神たちの力も弱くなっています。今我々が力を合わせれば、下位神たちをつぶすのも難しくはないでしょう」

彼の話に長老たちと国王は頷いたが、ハエムは自分もしらないうちに鳥肌が立つ気がした。熱気を吐きながら話しているカルバラ大長老の目から、大きく口を開いている蛇を見たような気がした。
一度落ちたら、二度と帰ることの出来ない…



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