第九章 運命の渦巻

第5話 1/2/3

グベルマン・アルコンは絵に描かれている女性のシルエットを撫でていた。肖像画に描かれている娘は穏やかに微笑んでいるが、死んだ娘を見ている父親の目元には涙がにじんでいる。

「アンジェリーナ…アンジェリーナ…フロンとは会えたかい?年寄りの父だけを残して、みんな逝ってしまったかい…」

アンジェリーナの相手が国王ロシュ・リオナンということが分かった時、グベルマン・アルコンは必死で反対した。
若い頃、王宮で過ごしたことがあるので、王宮について知っているのだ。

裏切りと陰謀で満ちている王宮で娘が国王の愛人っていうことが知れたら、ただでは終わらないだろう。しかも王妃がカノス・リオナンを出産したら娘は捨てられるはずだと、他の男性と結婚させるために説得したのだ。

しかしアンジェリーナは自分の意思を折れず、最後には国王であるロシュ・リオナンが二人に恋愛を認めてほしいと自分の前でひざまづいたのだ。

国王が地位の低い貴族の前で膝をつくことは、自分のフライドや命まで全部預けるということだ。結局グベルマンはアンジェリーナと国王の愛を祝福するしかなかった。アンジェリーナはやがて王宮で暮らすことになった。二人の恋愛を認める瞬間から娘がいずれかは誰かに殺されることを予感していた。

しかしながら、実際にアンジェリーナがカノス・リオナンの軍に連れて行かれ、孫のフロイオン・アルコンの死亡まで聞いてしまうと胸の中が絶望と哀しみでいっぱいになってしまうのだ。

「父上…」

振り向いてみると、ジオバンニが真っ白になってドアの前に立っていた。

「何だい?まるで幽霊にでも出会った顔ではないか」

「父上…フロンが…フロイオンが帰ってきました」

ブベルマンは一瞬自分の耳を疑った。死んだと言われた孫が帰ってきたということは
あまりにも意外なことだったのだ。

「今…何といった?」

「ただいま、お爺さん」


・次の節に進む
・次の話に進む
・次の章に進む
・前の話に戻る
・前の章に戻る
・目次へ戻る