第一章 救援の重さ

第4話 1/2/3

少女は泣き止んでいたが、まだその顔から涙の跡は消えていなかった。
そしてその瞳は固い決意で光っていた。少年はそんな少女の顔を見るのが苦しかった。
少女が、今日の昼間と同じく怒り出し、泣き叫びながら少年の父親を非難した方がずっとマシだと少年は思った。

雲が月を隠し、闇の帳が色濃くおりて足元も見えない夜道を少女はすたすたと歩んだ。
闇が濃く、少年には少女の姿が半分ぐらいしか見えなかった。その後姿が物悲しくて、少年は普段は行こうと思ったことのない暗闇の道を、少女の後を追って歩き出した。

町外れの家屋を過ぎても歩みを止めず、そのままかなりの距離を進んだ後に、少女はようやく振り向いた。
漆黒の闇の中であっても、少女の怒りがまだ収まっていないのが十分伝わってきた。
少年は声をかける事も出来ず所在なさげにゆっくりと足を止めた。

その時、月が雲の隙間から顔を見せた。
月明かりで見えた少女の顔は涙で濡れていた。口を硬く閉じて少年の方を睨みながら涙を流していた。
少女は少年に叫んだ

「あなたのお父さんがうちの母さんを殺したんだ!」

エドウィンは刺すように痛む頭をじっと手で押さえながら体を起こした。窓は閉じているのに、うるさい鐘の音が部屋中に響いていた。

彼は頭を軽く振るい夢の余韻を頭から消し、窓の外を見た。
まだ夜明けの薄い青色の闇が漂っている要塞内は耳が痛くなるほどの鐘の音や、その音のせいで目を覚ました兵士達のざわめきで騒然としていた。
1人、2人と要塞の中庭に集まり始める兵士達を見て、エドウィンは服を適当に身に纏い剣を手に握るやいなや、部屋から駆け出した。

鐘の音は要塞の中央にある神殿から聞こえてきた。神殿の塔の天辺にかかっている銅の鐘が壊れそうなほど揺れていた。
要塞の兵士達は神殿の周りに集ったまま戸惑っている。エドウィンは自分の目が届く範囲を見回した。

兵士達の視線が神殿に向かっているのを見て、外部からの襲撃ではないと判断した。神殿の前にはエドウィンと一緒にグラット要塞に派遣されてきた見習い騎士のハウトが立っているのが見えた。彼も鐘の音に驚き急いで駆けつけてきたようで、服装がずいぶん乱れていた。

エドウィンと目が合ったハウトは目で神殿の門を指して見せた。神殿の門は硬く閉められていた。
何かがおかしい。
神殿には鍵をかけていないし、通常は寒い冬の日であっても門は開かれているのだ。


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