第一章 救援の重さ

第7話 1/2/3

世界を創造した主神オンは各種族の住んでいる大地の境に強力なドラゴンを配置し、大陸の各種族が混ざらないようにした。これはトリアンが子供の頃から神殿や学校で学んだ世界創造の神話の一部だったそのため各種族は、お互いがこの大陸のどこかに住んでいることに気付いているにもかかわらず、主神オンの意志により、長い間お互い会うことはなかった。

そしてロハン暦240年、ヒューマンの使節団が種族の中では初めて、エルフの国ヴィア・マレアの首都レゲンの地を踏んだ。境界を守護していたドラゴンが消えたという事実はこれを機にエルフ社会にも広まった。
どうしてドラゴンが消えたのか、どこへ消えたのかは明らかになっていないままである。

トリアンはちらりと、自分の道連れを振り向いた。
彼女の道連れのキッシュはデカンという種族だそうだ。自らをドラゴンの末裔だと呼ぶ者達。デカンという種族がこのロハン大陸に始めて現れたのは、ドラゴンが消えた時期と一致していた。
だが、ロハン大陸の人のほとんどはデカンの主張を馬鹿な話だと思っていた。
トリアンもデカン族自らが主張する、ドラゴンの末裔という話を信用してはいなかった。

とりあえず、デカンはトリアンがこれまで見てきた絵や読んできた本が説明していた事実とは色々なところが違っていた。
ドラゴンとデカンの一致するところは、鱗と鰭のような奇妙な耳ぐらいだった。

いや、トリアンが直接会った事のあるデカンは、今彼女の目の前にいるキッシュ唯一人だったから、他のデカンがどんな姿をしているのかはまだ分からないことだった。

トリアンはキッシュの視線を追って、グラット要塞の高い塀を眺めた。些細な物にまで美しさを重視するエルフにとって、ただ効率だけを考えた厚い壁を建てるということは理解できないことだった。

エルフのトリアンにとってグラット要塞は、美しさの欠如した冷たくて高いだけの、草一本生えない岩の山のようなものだった。
しかもその厚くて高い壁は今、トリアンとキッシュには大変邪魔なものになっている。


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