狂気を運ぶ暴雨

第6話 1/2/3

「お茶を持ってきました」

キッシュは気押された表情で、ベッドの傍らにあるテーブルの上に置いてくれと言った。
侍女は控えめな態度で部屋に入り、テーブルの上にお盆を置いてティーカップにお茶を注いだ。
キッシュはゆっくりと歩み寄り、テーブルの傍にある丸い椅子に座った。
侍女は甘い香りがするティーカップをキッシュの前に置いて立っていた。
キッシュは少し躊躇ってから、彼を見つめる侍女を見て仕方なくティーカップを口に運んだ。
美しい侍女は夢見るような眼でキッシュを見つめていた。侍女の視線が気になったキッシュは慌ててお茶を呷った。
ティーカップが空になっても侍女は出で行く様子がなく、そのままキッシュを見つめていた。
瞬間、いきなり睡魔に襲われたキッシュは椅子から腰を上げてベッドの方へと歩きながら言った。

「ありがとうございます。もう一人にしてくださいますか?」

侍女はその言葉には答えなく、キッシュに近づいた。
キッシュは眠気の中でも驚いて侍女を見つめる。
彼女はそんなキッシュの反応は気にもせず、キッシュの身体を支えてベッドの方へと動いた。
腰を抱かれて引っ張られるようにベッドに連れて行かれたキッシュは、ベッドの上に倒れるように横たわるしかなかった。
侍女はそんなキッシュの身体の上に乗り、纏っていたコバルト色のシルクをゆっくりと脱ぎはじめた。
キッシュは制止しようとしたが、意識が徐々に混迷になって行く。
その時になってやっと、先飲んだお茶に何か怪しい薬が入っていた事に気づいた。
コバルト色のシルクが床に落ちて行くにつれ、侍女の肩と隠されていた胸が露になる。
キッシュは気を取り戻そうとしたが、目の前は霧がかかったようにぼやける一方だった。
豊満な胸の曲線を隠すものが薄い布一枚だけになった頃、
そこに縫いつけた形で固定してある小さな短刀が目に入った。
侍女が短刀を高く振り上げる。

「何を…」

侍女が振り上げた短刀が自分の首を目掛けて下ろされる光景を見たのが最後だった。
キッシュはそのまま意識を手放した。


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