第三章 因果の輪

第2話 1/2/3

「その話し、どこで聞いた?」

人々の話を聞いていたタスカーが急に起き上がって、ある男の胸倉を取る。

「な、なんのことだ?」

胸倉を握られた男はびっくりして言いもつれてしまった。

「さっき、ラウケ神団がどうだこうだって言ったじゃない!」

普段のタスカーらしくない、興奮した声が漏れる。

「ぼ、僕はただ、ラウケ神団がその噂話を世の中に広げたって言っただけだ、それがどうした!」

「そのラウケ神団、どこで会ったの?」

タスカーは何故かさっきより興奮して、男の胸倉をもっと激しく握っていた。

「けっ、は、離してくれよ、人を殺す気か?」

ケンは彼女の手を振り切って、叫ぶように言った。

「シルバの風の近くで会ったんだ、もういいか?!」

「いつ?」

「2日前だった、ったく…変な女だな」

ケンは床につばを吐き、その場を去ってしまった。
しかしタスカーはそのまま固まったように立って、何かを深く考えていた。
エドウィンは彼女の顔に驚いて話しかけることができなかった。
そしてタスカーは決心した顔でエドウィンにこう言った。

「エドウィン、悪いけど、リマには1人で行って」

「急にどうしたんですか」

彼女は恐る恐る答えた。

「私は息子を探しに行かないと」

「息子?」

エドウィンはびっくりして聞き返した。

「実は私、ラウケ神団にまぎれて家出した息子を探すために旅してるの。あの子は、神が私達を捨てたという話しに絶望し、家を出てしまったの」

タスカーの瞳には悲しさが溢れていた。

「息子の名前は?」

エドウィンはタスカーを慰めるために話題を変えようとした。

「エミル…」

「じゃ、僕も一緒にエミルを探します、どうせそっちの方も行ってみようかって思ってましたから」

エドウィンに話しにタスカーの目が大きくなって、やがて涙目になった。

「あなたって、意外と優しいんだから」

エドウィンは急に自分の頭を撫でるタスカーに驚いて顔を赤くした。

「恥ずかしいことないよ。私、年上だって言ったでしょ?」

タスカーは意地悪く笑った。
エドウィンは自分を子ども扱いしているタスカーの行動に溜息さえついたが、当分はこのままがいいとも思った。
彼女が息子を探すまでこの道を進めば、いつかは神の真実に触れることができるかもしれないという根拠のない思いが、頭をよぎった。


・次の話に進む
・次の章に進む
・前の節に戻る
・前の話に戻る
・前の章に戻る
・目次へ戻る