第三章 因果の輪

第3話 1/2/3

日差しが眩しい昼だった。
野原には動物が腐ってゆく匂いが溢れ、鷹は陽炎でぼやけている空を飛んでいた。
白い雲と青い空とは対照となる黄色い痩せ地に目眩がする。
大地の生命体はジャイアントの短い夏の暑苦しい息で苦しんでいた。

フロイオン・アルコンが行方不明になってから一週間が経った。
夏が近付き、寒さには強いけど、暑さには慣れてないジャイアントの戦士達は疲れてゆく。
一部のジャイアントは何故ダークエルフのためにこんな事までしなければならないのかと不満を言った。
そんな話が出てくる度に、クレムとナトゥーは力強い一喝で彼らの騒ぎを抑えたが、
いらいらするのは彼らも同じだった。
まさに誰かがフロイオンが残した全ての痕跡を消したように、彼の手がかりは見つからなかった。
ナトゥーは遠く見える地平線を眺めながら、深い溜息をした。
その時、一人の戦士が彼に近付いてきた。

「ナトゥー様、首都からお客様です。」

「誰だ?」

ナトゥーの質問に、戦士は戸惑いながら答えた。

「それが…身分を明かさなかったのです。見せてくれたのは王家の指輪だけでした。」

部下の答えにナトゥーは眉をひそめた。

「分かった。」

ナトゥーはバラックに足を運びながら、ややこしい事に巻き込まれそうな感じがした。
この辺りに王家の指輪をもっているような身分の人はない。
それに、こんな頭の痛い時期だから、誰が訪問してきても歓迎する気持ちにはならない。
バラックの中には頭の上からつま先まで真っ黒なマントをかぶっている見知らぬ人がいた。
彼は人の気配を感じ、顔を向けてナトゥーを見つめた。

「こんにちは。ナトゥー様。」

ナトゥーはマントの人の顔を確認して、呻いた。

「バタン卿…」

バタンはマントの帽子をとりながら、微笑んだ。
ナトゥーの顔はどんどん固まった。

「あら、あまり嬉しがる顔ではなさそうですね。」

「ドラット王国の宰相がこんな所までどういう事でしょうか。」

ナトゥーは言葉を切りながら、明らかに不愉快な気持ちを示した。
彼は戦士だ。よこしまな政治家は嫌いだ。
それにバタンはその政治家の中でも権力者。
若い年齢で宰相の位置まで上がり、今は国王の右手であった。
バタンはあからさまに不快な顔をするナトゥーに一瞬驚いたような感じだったけど、すぐ微笑みを戻した。

「やはり噂通りですね。では、早速本題に入りましょう。」

バタンは袖の中から巻物を一つ出した。
封印のシールの上には国王の印があった。
ナトゥーは予感通り厄介な事に巻き込まれる事に気付き、溜息をした。
バタンは巻物をテーブルの上に置いた。


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