第三章 因果の輪

第3話 1/2/3

「現在、ジャイアントはややこしい状況に直面しています。
ダークエルフ側で使節団の事やフロイオン・アルコンの行方について追及をしているためです。
いざとなったら戦争にまで及ぶかも知れません。
彼らは我々ジャイアントが協約をやぶる為に使節団を殺したと誤解しているようです。
ひょっとしたら使節団を襲った奴らが狙ったのもそれかも知れません。
国王は悩みの上、ダークエルフに協力する事にしました。
私がここに来ているのは、あなたに国王の命令を伝えるためです。」

バタンは自分がはめている王家の指輪を抜き出してナトゥーに差し出した。

「ナトゥー卿。レフ・トラバの名で命じます。
今すぐフロイオン・アルコン卿の身辺を確保し、モントに使節として行って来なさい。」

「単独行動をしろという事ですか?」

ナトゥーが眉を上げた。

「はい。全ての事は極秘に付しなければなりません。
国王は戦士会の反対に反して、単独でこの事を成立させようとしているので。」

ナトゥーは小さく悪口を吐いた。

「戦士の俺に政治に関われというのですか?それも犠牲者として!」

「違います。犠牲者を選ぶなら、捨てても惜しくない人を選択したでしょう。
むしろあなたを選んだのは私の意志です。」

「どうして?」

バタンは初めて深い溜息をした。

「ナトゥー様は政治に興味がないのでよく分からないかも知れませんが、
いま首都エトンは戦士会の首長ノイデを中心とした国王派と、
私を中心としているアカード派が対立しています。
第二王子のアカード殿下はヒューマンを攻撃しようとする国王に反対していらっしゃる。
私は国王の右手として知られていますが、実は国王が王子をけん制するため、
私を人質にしている事に過ぎません。」

ナトゥーは初めて聞く話に驚きを隠せなかった。
ジャイアントの中でこんなもつれが存在するなんて、一度も考えた事がない。
バタンは苦笑いをしながら話を続けた。

「国王は第一王子のクリオン殿下を失った事で悲しんでいらっしゃいます。
ダークエルフと手を組んだのは、その怒りをヒューマンに向かせるためです。
臣下の身でありますが、私的な感情で国事を決める国王には賛同できません。」

「では、あなたはこの協約に反対するとでも?」

ナトゥーの質問にバタンはクビを横に振った。

「それは違います。今の状況ではダークエルフに協力する必要があるからです。
ただ、それはヒューマンと対立するためではありません。
アカード殿下は更なる将来を見通しています。
私はアカード殿下の全てをかけると決心しました。
あなたを選んだのも、殿下を支える事ができるかテストしてみるためです。
もちろん、あなたには選択の権利がありません。」

バタンはなんともない顔でありえない事を吐き出している。
宰相だといえ、戦士を優遇するジャイアント社会でナトゥーの名声は高く、戦士達の尊敬の対象になっている。
周りに他の戦士がいたなら、彼がナトゥーを侮辱した事で剣を抜いてもおかしくない状況だ。
ナトゥーは幼弱な外見と違って勇気のあるバタンの行動に笑ってしまった。

「私を必要以上に高く評価していますね。
私にはあなたがテストするほどの価値がありません。」


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