第四章 隠された真実

第10話 1/2/3/4/5/6

「自決で失敗した任務と仲間の死に対する責任を取れ」

死で責任を取れというセリノンの言葉に、ライはその時まで腕にめり込んでいたカエールの矢をとり出して、腰に付けられていた短刀を取り出す。
矢の傷跡から流れ出す血はライの腕から短刀の刃を浸して地面に落ちる。
クニスは相変わらず何の関心も無いようにライの行動を見つめるだけだった。

少し深呼吸したライは両手で短刀を握り、腕を伸ばす。
自分の心臓を向けて刃を刺し込もうとしたその瞬間、一人の女性の声が頭の中に響く。

「黒蝶を召喚して下さい」

セリノンはライを止めさせ、懐から小さな鏡を出して地面に置いた。
鏡が夜空の月を映し、揺れ始めた。
鏡に映る月から光が放たれ、ややあってその光の中に人の姿が現れた。

光が消えてシルエットは黒いシルクのドレスを着たダークエルフに変わった。
肩に垂らした黒いウェーブヘアーの間で蝶のタトゥーがそっと見えてきた。
アクアマリンの瞳の彼女がセリノンに向かって優雅に挨拶する。

「ジャドール様自らここまでお越しとは、何のご用で?」

ジャドールと呼ばれたダークエルフは自分の足元に置かれた鏡を拾い、セリノンに渡しながら答える。

「今頃は完遂したという知らせが届くはずなのに何のたよりも無かったゆえ、直接来てみました」

「それはすまないことをした」

セリノンの答えにジャドールは案外だという顔をする。

「失敗したということですか?」

「一人逃げましてね」

クニスが何心無いように答えた。

「誰なのです?」

セリノンはしばらくためらってから控えめに言う。

「フロイオン・アルコン卿です」


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