第四章 隠された真実

第10話 1/2/3/4/5/6

ジャドールはライを指差しながら話を続けた。

「彼女が今宵任務を全うしたら許してあげるということで」

セリノンは戸惑った。
任務に失敗したアサシンが死で責任を取ることはシャドーウォーカーの古くからの決めごとで、リーダーである自分さえも避けられない原則だった。
しかし、今は任務の雇い主が例外を提案している。

「しかしまた失敗を犯したら?」

「もちろん最後のチャンスでも失敗してしまったら、貴方たちのルールに従うべきでしょう」

クニスの質問からセリノンがためらう理由を察知したジャドールがとうぜんだというように答える。

「分かりました。ライにもう一回チャンスを与えましょう。
ライ、よく聞いてね、最後のチャンスを与えましょう。
フロイオン・アルコンを始末するのだ。確実にね」

ライが頷いてすぐ発とうとしたら、ジャドールがライを呼び止める。

「そんなに傷だらけでは失敗の可能性しか高まりませんわね」

ジャドールが短い呪文を唱えながら自分のスタッフをライの腕に当てると出血が止まった。
ライは不思議そうに怪我した腕を触ってみる。
矢がめり込んでいた傷跡は残っていたものの、出血も無く痛みも消えていた。

「私たちの魔法ではエルフたちのように完璧に治癒することは難しいですが、しばし痛みを和らげることはできます。
そしてもう一つ」

目を閉じたジャドールがスタッフを握った両手を伸ばして、以前より長い呪文を唱える。
スタッフの先端に埋め込まれていたアクアマリンが輝きながら長細い煙のようなものが流れ出て、ライの体に絡み始めた。
ジャドールが呪文を終えるまでスタッフから流れ出た輝く煙はライの体を覆いながらくるくると回る。
そしてジャドールが呪文を終えて目を開けると、その煙はライの体に吸い込まれるかのように消えてしまった。
ライは急に自分の体がとても軽くなり、絶えなく湧き上がる力を感じた。

「しばらくだけですが貴方の能力が何十倍も上がる魔法をかけました。
今の貴方はいつよりも素早く強くなったはず。
魔法が消える前に任務をこなして帰ってきて頂戴」

ライはジャドールにお礼をいい、ハーフリングの村に向かって走り出す。
誰が見ても彼女の動きはまるで風のようだった。

「あんな魔法があったのなら予ねてからの作戦時に私たちにも掛けてくれたらどうでしたかね?
だったら任務をこなすのも楽だったはずなのに」

ライの姿が見えなくなったらクニスが愚痴を言った。
ジャドールは優雅に微笑みながら答える。

「確かにあの魔法を借りると任務は楽になるでしょう。
それ以上のことは出来なくなりますけれど」

クニスが理解できないという顔で見つめると、ジャドールは天使のような優しい顔で補足した。

「あの魔法が解けた瞬間、貴方は永遠の深い眠りにつきますからね」


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