第五章 レクイエム

第3話 1/2/3

青い空の下に広がっている薄緑の芝生。
そして、その上に建てられている茶色の古めかしい建物へ徐々に近づくとエドウィンの胸がときめいた。
そんなに長らく離れていたわけではないのに、自分の実家が見えてくるとこれほど懐かしいことはない。
多分あまりにも多くの出来事があったからだろうと思いながら、エドウィンは足を早めた。
途中で寄った宿で、人を送って自分の帰還を知らせたから、母が待ち焦がれているかも知れないと思ったからである。

家に帰ったエドウィンが一番先に喜んだのは幼い頃から飼ってきた猟犬たちだった。
最高の鴨狩りだと呼ばれているノックス種5匹がワンワンと吠えながら若の帰りを待っていた。
犬の吠え声に屋敷が騒いだ後、玄関の扉が開かれ母と自分、両方の乳母であるヨハンナそして我が最愛の母が現れた。

「エドウィン!」

母は玄関に立って微笑み満ちた顔で息子の名を呼んだ。
エドウィンは遊んでくれと、くっつく狩犬たちを残して母に近づいた。

「ただいま戻りました、母上」

エドウィンは自分の母をギュッと抱く。
幼い頃にはこの世でもっとも美しい人だと思っていた母は、尚も美しいままだった。
だが、もはや庭にまでも出られないくらい健康が衰えた姿に心が痛いと思った。
帰ってきた末っ子の顔をなでながら、バルタソン男爵夫人は優しい声で話しかけた。

「無事に帰ってきて何よりだわ。
今朝貴方が帰ってくるという便りをもらって、ジフリットも久しぶりに帰ってきたのよ」

「兄上も来ているんですか?」

「書斎でお父さんと一緒に貴方を待っているの。
でも…」

兄が書斎で自分を待っているといる母の言葉だけを聞いたエドウィンは屋敷の中へ急いだ。

「グレイアム・ベルゼン伯爵が旦那様と一緒におられますが、奥様」

ヨハンナが不安な顔でバルタソン男爵夫人に声を掛ける。

「私もその話をしてあげようとしたけれど…
入ってしまったわね」


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