第五章 レクイエム

第3話 1/2/3

屋敷の2階まで駆け上ったエドウィンは、父の書斎の前に立って息を弾ませながら身づくろいを整えた。
扉にノックして入ろうとした瞬間、書斎の扉が開かれ兄が現れた。

「兄上!」

「エドウィン!いつの間に着いたんだ?」

扉の前に立っていたエドウィンを見てびっくりしたジフリットの後ろから若い男性の声が聞こえる。

「次男の息子さんがお帰りのようですね」

「そうみたいですね。
ジフリット、何をしておる。伯爵が出れるよう道を開けぬか」

父の言葉にもじもじしていたジフリットが書斎から出て廊下に立つと、エドウィンの視野に父の隣にいる若い男性が入った。
自分とあまり年の差がついてないように見える男は、くしけずった黒い髪の持ち主で、黒い瞳で自分を見ていた。
口元にニッコリと微笑を含んでいる彼の目つきは、年より成熟したように見える。
エドウィンは彼が空を羽ばたく気高い鷹のようだと思った。
男はエドウィンに近付き、握手を請じながら自分を紹介した。

「初めまして。
グレイアム・ベルゼンです」

エドウィンは慌てて皮の手袋を脱いで、男と握手を交わした。

「エドウィン・バルタソンと申します。
お会いできて光栄です」

「バルタソン男爵から貴方の剣術にとても誇りを持ってらっしゃるようで。
後ほど御指南いただける機会があればと」

「勿体無きお言葉。まだまだ足りません」

グレイアム・ベルゼン伯爵はジフリットとバルタソン男爵に別れを告げて階段を下りた。
階段の下で客のマントを持っていた執事が伯爵を見送りするところまで見たバルタソン男爵はエドウィンに声を掛ける。

「無事に帰って来て何よりだ」

「ただいま帰りました、父上」

「疲れているだろう。
夕食までは部屋で休んでよいぞ」

「はい」

エドウィンの肩を撫でた後、バルタソン男爵は書斎に戻った。
隣で見ていたジフリットはエドウィンの腕をつかんで部屋まで連れて行きながら話す。

「父上ももう年のようだな」


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