第五章 レクイエム

第6話 1/2/3/4

少年は先立って何処かへ向かっている。
松葉とケイトウの香りを含む風が感じられることからみると多分ここはどこかの森の中のようだ。
走っていた少年はたびたび後ろを振り向きながら、早く来いと手を振る。
途中で少年の足取りが遅くなった。
彼は生い茂ったやぶを掻き分けながら慎重に進んだ。
少年が振り向きながら言う。

俺が言ったのがこれだよ。

目の前に薄紫色に光る水晶の欠片があった。
聖なる不思議な光の前では心の中のすべての悲しみが消えていくような気がする。
少年は水晶の欠片の上に手を載せながら話した。

触ってみて、ライラック…

ライラック?
私の昔の名前を知っているあなたは誰?

「おい、気がついたか?」

見知らぬ老人の声でライは目を覚ました。
丸木の天井が目の前に見えて、ライは自分が夢を見ていたことに気づいた。

「ほほう、やっと目を覚ましたか。
君がどれぐらい意識を無くしていたか分かっているかい?
十日も寝ていたのだよ」

ライは自分を起こした声が聞こえるほうに顔を巡らした。
腹を隠すくらい長くて白い髭の背の低い老人が自分を見つめていた。
ライは一目で彼がハーフリングということが分かった。

「体はどうだ?
起きられるかい?」

上半身を起こしながら大丈夫だと答えようとしたライは声が出せないことを悟った。
いくら話し出そうとしても声が消えてしまったように口からは何の音も出ない。
戸惑った顔で口を開くと、ハーフリングはライの首を撫で、口の中をうかがった後舌打ちしながら話した。

「命は助かったが呪いのせいで声が消えてしまったんだな」


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