第五章 レクイエム

第6話 1/2/3/4

ライは自分の耳を疑いながら体を起こした。
そして自分が聞き間違えてなかったことを知って身震いをした。
イグニスに戻ったと思ったダークエルフが部屋の中に立っていた。

「あなたには何もしないと医者さんと約束したから心配する必要は無いよ。
いや…
心配するほうはむしろこっちかもね。
俺を殺そうとした暗殺者と同じ部屋にいるからさ」

`何が欲しいんだ!`

ライはフロイオンに叫ぼうとしたが、自分の声が出ないということに気づき、唇を噛んだ。
フロイオンはライのベッド辺りにある椅子に座り、それ以上近づかない。

「医者さんが話したとおり声が出ないらしいね。
あなたに聞きたいのは一つしかない。
だれが俺を殺そうとしたのかだ。
あなたが何の恨みで俺を殺そうとしたわけではないくらいは分かっている。
あなたたちはヒューマンとは相当似ているが、ヒューマンではないね。
ダンという種族がロハン大陸の北の島に住んでいると聞いたことがある。
暗殺者たちの種族である彼らは自分の姿を隠せる不思議な技が使え、その技を利用してターゲットを始末するのだそうだが。
一般人にはあまり知られてないかも知れないが、俺は王家の者であり外交担当なので多種族に関してはそこそこ知っているよ。
誰があなたに俺の殺害を頼んだ?」

フロイオンの言葉にライは頭を横に振った。
暗殺の依頼主の名前を明かさないのは暗殺者にとっては暗黙のルールだった。

「そうくると思ったよ。
プロの暗殺者がそんなことを簡単に吐くはず無いからね。
多分あなたはグスタフさんが言った`蒼いマントの医者`があなたの呪いを解いてくれたらすぐこの町を出るつもりだろう。
だが…」

フロイオンはしばらくライを睨みつけて話を続く。

「あの医者だけではあなたに掛けられている呪いは解けないよ。
あれはダークエルフの古代魔法からきた後遺症だからな。
しかも普通の魔法ではなく、禁じられた古代黒魔法の中でももっとも強いものだ。
普通のダークエルフの呪いなら、かの名医と言われるエルフさんが解いてくれるかも知れない。
だけどあなたに掛けられているのは違うね。
いくら優れた治癒力の持ち主であれ、黒魔法の持つ属性とは違うため呪いを解くには限界がある。
すなわち`蒼いマントの医者`と俺の魔法を合わせないとあなたの呪いは解除されないということだ」

`信じられない。
この人は嘘をついている`

ライはフロイオンが自分を脅すため嘘をついていると考えようとしたが、心一隅では事実であるかもしれないという気がした。

「取引をしないかということだよ。
あなたの呪いを解くことに協力するから、俺を殺せと依頼したやつが誰なのかを教えてくれ。
考える時間を与えてあげる。
明日の夜、その答えを聞きに来るよ」

フロイオンは自分の話を終わらせて椅子から立ち上がり、部屋の扉に向かう。
扉の引き手を握りながら囁くような声でフロイオンが呟いた。

「あなたは俺の提案に乗るはずだ」


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