第五章 レクイエム

第7話 1/2/3

ドビアンが帰った後、カルバラは侍従たちにもし客が訪ねてきても留守だと言うよう伝えておいて自分の部屋に閉じこもる。
ドアを硬く閉じて、部屋に置かれているドラゴンの彫像に近づいた彼は、誰か盗み見ているのではないかと疑うように慎重に周りを見渡す。
部屋の中には自分しかいないことを確認したカルバラは自分が持っていた杖の上に付けられていた黒い水晶球を取りはずし、ドラゴン彫像の右目の水晶球と入れ替えた。
するとドラゴンの右目になった黒い水晶球の中に渦巻く赤い霧が現れた。
その霧は段々広まり水晶球の外にまで流れでて、カルバラの部屋の中に満ちる。
部屋が真っ赤になったと思われた瞬間、大長老の後ろから声が聞こえた。

「お帰りになられましたか、カルバラ様」

カルバラ大長老が振り向くと赤い布を頭に被った男が一人床に座って彼を見上げていた。
真っ赤な布の色が赤い霧と混ぜられ、まるで赤い霧が男を呑み込もうとしているように見える。

「ドビアンがもうカルバラ様のことを信頼していましたか?」

「左様。
信じていた友が裏切り者になってしまったゆえ、とても腹立っている。
だが、未だに心の底からは友のことを信じたいと思っているようだ」

「心配ご無用。
今日飲ませた茶が効果を発すれば、そんな気持ちなど最初から無かったものと同然であります」

大長老は眉をひそめた。

「魔法でも使ったのかね?」

「くくくっ…
ドビアンが飲んだ茶は全てを凍らせる魔法の水で作られたもの。
くくっ…
それを飲んでしまったら、友など道端の石ころに過ぎません」

「少々危険ではないか?
我々までそういうふうに考えられてしまったら…」


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