第六章 嵐の前夜

第12話 1/2/3

警戒しているのは二人だけで、気も緩んでいる。ナトゥーは腰にかけていた鞘から剣を抜き出した。両手に剣を握ったが、剣の刃の部分ではなく、みねを外側にした。後の事を考えると、警備兵を殺すわけにはいかない。出来るだけ傷をつけないほうが最善だ。ナトゥーは警備所の正面で大きく深呼吸をしてから、大声を叫びながら二人の間へ走り出した。

いきなり聞こえてくる大きな叫び声と重たい足音に驚いた二人が後ろを振り向き、ナトゥーを見かけた。スタッフを出すことすら忘れたまま慌てている間にナトゥーは目の前まで近づいていた。ナトゥーが振るった剣に二人は息を飲むような短いうめき声を出しながら倒れた。

ナトゥーは二人に近づき、彼らが生きていることを確認してから北へ向かって再び走り出した。ある程度離れた所で振り向いたら、いつの間に月は消え、朝日が昇ろうとしていた。星も日差しの明るさに光を失い、朝を迎える自然の躍動が感じられた。ナトゥーは東から吹いてくる風から海の匂いを感じ東へ向かった。

太陽は既に半分昇っていて、闇に隠れていた周りの景色が鮮明に目に入ってきた。
自分が海岸の崖の上に立っていることに初めて気がついた。険しい崖の下には巨大な渦が3つ激しい波になっていた。やっと自分が渦の海辺まで来たと分かった。

そのまま北へ行くとハーフリングの首都「ランベック」で、また西へ行くとハーフエルフの中心地である「カイノン」だ。ここからは十分慣れている地域だ。もう迷うことはないだろう。

警備所からずっと握っていた剣をやっと鞘に差し入れた。やっと無事に脱出したという安心感で、一気に体全身を疲れが襲ってきた。そのまま少しでも寝たかったが、ドラットの運命が双肩にかかっているため、朝日に背を向け西へと足を運んだ。


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