第六章 嵐の前夜

第2話 1/2/3/4/5/6

当時軍人訓練場にいたハウトと聖騎士団のエドウィンが会えるのは神学の授業時間と祈祷の時間しかなかったが、二人は出会ってから約束でもしたようにルムスの話をした。
ルムスのことを話すたび、後に外で出会ったらルムスで勝負しようと言っていたが、グラット要塞に派遣されてからは忙しくてルムスの話も出来ず、結局ルムスで勝負しようとした二人の約束はハウトの死で守られなかった。

`その時、本当にハウトは死んでしまったのか`

本棚の本を一つずつ取り出しながら本のタイトルを確認していたエドウィンの動きが止まった。
胸に穴が開いたまま剣を振り回していたハウトの姿が頭の中に浮かぶ。
エドウィンの剣で片腕が斬られてしまったにも関わらず、何の痛みも感じられず、エドウィンを殺そうとした、殺気に満ちた目をしていたハウトは生きているとは言えなかった。
しかし未だにエドウィンはハウトの死を実感できなかった。
グラット要塞での出来事は全部一夜の悪夢のようだった。
今でもグラット要塞に帰ったら、ハウトがルムスの話を持ってくると思った。

エドウィンは片手で右腰の傷跡をそっと触った。
トリアンだと自分を紹介したエルフが魔法で治してくれたものの、傷跡は未だに消えない。
でこぼこな傷跡はグラット要塞の出来事を決して夢では無いと言っているような気がした。
その時見た神が偽りの神だったのか、彼が本当にハウトとヴィクトル・ブレン男爵を殺したのか未だに謎めいたことが多すぎる。
グラット要塞で起きたことを説明できるのはヘルラックの予言だけだった。
ラウケ神団で信じられているというその予言こそが、今起きている全てのことを説明できる唯一な鍵だと思ったエドウィンはまた急いで本棚の本を確認し続けた。

しかしヘルラックの預言書に関する内容は何一つ見当たらなかった。
エドウィンは少しでも関わりのありそうな本は全部細かく確認したが、予言に関しては糸口一つつかめなかった。
見つけたのは全てがヘルラック本人に関する資料しか無く、それも全部反逆者クラウト・デル=ラゴスの参謀だったということだけだった。
ヘルラックに関する内容はそれが全てだった。


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