第六章 嵐の前夜

第6話 1/2/3/4

同じ村で育ったナトゥーの人生に、クレムのいない時は一瞬もなかった。いつもクレムは自分のそばで自分と一緒に行動していた。二人は友達であり、いいライバルであった。クレムの武術の腕は決して自分より劣っていなかったにも関わらず、クレムは彼に口癖のように一生自分の事を補佐したいと言った。

彼はナトゥーが部隊長になる日、お祝いの言葉と共にナトゥーが隊長になれば、自分が部隊長になって力を貸すと、言った。そのたびにナトゥーはクレムに一緒に隊長になろうと言ったが、クレムは首を横に振りながら言った。

「俺には分かる。君は隊長になれる能力を持っているが、俺は違う。一生懸命に頑張っても部隊長になるのが精一杯だ。しかし、最善の努力を尽くして絶対に部隊長になる。君が暴走した時、落ち着かせる事ができるのは俺ぐらいしかいないだろう?」

クレムの話にナトゥーは大声で笑った。そして頑張って出来ない事なんかないと友達を激励した。ナトゥーは死ぬ日まで、いつもクレムと共に戦場を走り回ると思っていた。しかし、バタン卿が伝えた国王の命令でイグニスに来る事になり、始めて二人が離れる事になったのだ。

‘バタン卿は俺がここに来ると、こうなることを知っていたのか?’

政治家たちの考えを読むのは難しかった。しかも、二番目の王子の手下である事を隠して、国王の右腕として活躍している若い宰相の本音を探るのは無理だと思った。バタン卿はナトゥーを選択した理由は、アカード王子を支えられる能力があるかどうかを試すためと言った。

ということは、バタンはイグニスを訪問する事が誰にでも出来る容易な事ではないと知っていたのに間違いない。国王の力を借りてバタン卿が自分を弄んだと思い、ナトゥーは腹が立った。頭を思いっきりそらして壁にぶつけた。

‘ドン!’と音が鳴ってダークエルフの警備兵たちが一瞬驚いてナトゥーを睨んだが、すぐまたお酒を呑みながら騒ぎ出した。ナトゥーは大きく深呼吸をし、頭を左右に振った。この場所にいつまで閉じこめられているか分からない状況で、無駄に力を使うのは危険だった。

その時、頭の後ろから冷たい石ではない違う何かが感じられた。振り向いて壁をよく見てみると、ほんの少し隙間があって、その間から小さな巻物が見えた。ナトゥーはベロベロが監獄を出る前に自分に壁の隙間に挟んで置いた手紙をカイノンにいるエレナに渡してほしいと頼んできた事を思い出した。

ナトゥーは振り向いて座り、警備兵たちが気づかないようにして、右の手で顔の横にある穴から巻物を出した。巻物は小指ぐらいの大きさだった。慎重に巻物を結んでいる紐を解いて広げてみた。しかし、初めて見る文字で文が1行簡略に書いてあるだけだった。いくら覗き込んでも内容を理解する事はできなかった。


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