第七章 破られた時間

第12話 1/2/3

親愛なる大神官リマ・ドルシル様、

ヴェーナを離れ、まだ1ヶ月しか経ってないというのに私は1年も経ったように感じます。私は今クレア工房に泊まっています。

レゲンがモンスターの土足に踏みつけられた時、私をヴェーナまで無事に連れて行ってくださった司祭の方に関して話したことがありますけれど、覚えていらっしゃいますか?

その方を訪ねたところ、私がやらなければならないことを見つけたので、少しの間ここに留まる事になりました。私はここで傷ついた幼い魂を治癒しています。

私がこの可愛そうな魂を発見した時、幼少期に起こりうる一番悲劇的な事件を経験したせいで、暗い深淵の中でうずくまっていました。私の旅がどれほど大きな意味を持っているかはよく分かっています。

しかし、私はこの少女の魂がますます深い奈落に落ちて行くのを、見てみぬ振りをするのは出来なかったので、ここで少し時間を割いているのです。

ここに到着した次の日から私は彼女に少しずつ近寄り始めました。私に背を向ける彼女を暖かい目で見つめてあげて、返事のない彼女に私の小さい頃の話をしてあげながら彼女の心が開くのを待っていました。それは不思議な経験でした。

アカデミーの本で学問として接していた治癒の技術を直接行動に移しながら、私の自身も治癒されていくような気持ちになりました。そういった私の思いに10日経った日、少女は応えてくれました。

眠る前、彼女の横で話をしていた私に彼女が静かに言ってくれました。「ありがとう」と。聞こえるような、聞こえないような小さな声でしたが、私はきちんと聞きました。私はその夜、久々に女神マレア様に祈りました。

あの方がもう私たちの祈りを聞いてないということは誰よりもよく分かっていたけれど、祈りたかったのです。ありがとうございますと。この幼い魂に光が差し込むようにしてくださってありがとうございますと。


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