第七章 破られた時間

第3話 1/2/3

月の光を受けた浜辺の砂は星のように光っていて、夜空に似た海は静かに波を押し出していた。エドネの目とも言われる月は特に白く輝いていた。

砂浜で横になって足先で割れる波を満喫している女性の顔は、その月の光を浴びてなお神秘的に見えた。目を閉じたまま、口元に穏やかな微笑みを浮かべている女性は髪を風になびかせながら、深い海の底の妖艶な海草を思い出した。

ナルシ…

自分の名前を呼ぶ声に気付いたのか、女の人は目を開いた。赤く深い瞳はルビーのようだった。美しい2つの宝石はしばらく夜空を見つめてから、ゆっくりと自分の名前を呼んでくれた人の姿を捜した。

ナルシ…

もう一度、名前を呼ぶとその二つの瞳が自分に向かってにこっと笑った。彼女はゆっくり立ち上がった。砂の上に両足で立って、自分の所に来るよう手招きをしていた。紅潮させた彼女の両頬を包み込んで口付けをした。

まだ咲いていない、つぼみの中の花びらのような柔らかさだった。恥ずかしげに笑う彼女がゆっくり海の中へと入った。腰までくる水の中で、彼女が水を汲んで顔をぬらした。月光の中に立っている彼女の姿は、海の女神のように美しかった。

水面に浮かんでいる白い月が彼女を包みながら波の曲線を描いていた。急に、水面で光っていた白い月がゆがみ始めた。黒い渦巻きが巻き起こり、白い月を破って濃い紫色の煙を吹き出した。

黒雲のように集まってきた煙は更に巨大になって、その邪悪なシルエットに彼女は怯えてしまった。夜の空気を切り裂く悲鳴と一緒に、彼女の身が水の中へと消えた。彼女を救うために水の中に飛び込むと、気を失った彼女が見えた。急いで彼女を抱いて水の外へ出るが、目を開かなかった。


・次の節に進む
・次の話に進む
・次の章に進む
・前の話に戻る
・前の章に戻る
・目次へ戻る