第七章 破られた時間

第3話 1/2/3


「キッシュ様!キッシュ様!目を覚ましてください!」

誰か力強くキッシュを揺すっていた。重いまぶたをやっと開くと、朝日が目に差し込んできた。眩しくて横を向いたまま体を起こした。試験監督官がキッシュを見つめながら笑っていた。

「朝には弱いようですね」

夢だったのか。キッシュは周りを見回して、自分が夢を見ていた事に気付いて苦笑いをした。

「試験が終わりました」

訳が分からないという顔で試験監督官を見ながらキッシュが聞いた。

「試験が終わったとは?どういう事ですか?」

「ドビアン様が指輪を投げて救護要請をなさったので、キッシュ様の勝利となりました」

キッシュはまだ自分の腕にかけられている腕輪を見つめた。

「今回の試験は恐怖が克服できるかを試したものでした。お二人方が島に入ってから、私達は島の中に‘地獄の花’と呼ばれている赤いクメラを放ちました。赤いクメラから出る煙は無意識の中の恐怖を幻として見せてくれるそうです。キッシュ様は何を見ましたか?」

監督官は気になるというような顔をしてキッシュを見つめた。キッシュは黙って立ち上がり、歩き始めた。監督官は首を傾けながらキッシュの後を追って歩いた。

入ってきた入口には警備兵たちが列に合わせて立っていて、海を渡る橋を挟んだ向こうには見物にきた人たちが見えた。彼らはキッシュが歩いてくるのを見て、歓声をあげた。橋を渡る直前、キッシュは振り向いて監督官に言った。

「赤いクメラが私に見せてくれたのは、昔の恋人でした」


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