第九章 運命の渦巻

第2話 1/2/3/4

ゴック・シャルクは答えている執事を後ろにして自分の書斎へ足を運んだ。
部屋の真ん中には氷のように冷たい水が流れている噴水がある。
ゴック・シャルクは噴水の横に座り、水に手を浸した。

「ふむ…」

溶岩のように静かに湧いていた怒りが冷たい水のお陰でさめていくことを感じながら、
ゴック・シャルクは重いため息を吐いた。
イグニスの現国王であるカノス・リオナンは先王のロシュ・リオナンに少しも似ていない。
ロシュ・リオナンは父親のゴンサロ・リオナンや王妃であるシャロット・コンテブローに振り回されるばかりの
案山子のように力のない王だったが、正否が判断でき他人が配慮できる人だった。
父親と王妃の勝手な主張で無理やりに近い命令を出すときはいつもすまないという表情をしていた。
だからこそ、王室と貴族のたちの激しい戦いが続いてきた歴史の中で唯一静かな時期でもあったのだ。

「まあ、今も静かなのは静かといえるな…狂った犬がうるさくほえているから、他の声は埋もれてしまうな…」

ゴック・シャルクは独り言をつぶやきながら苦く笑った。
文句一つ言わずに国王の命令に従ってきたゴック・シャルクが気に入ったのかロシュ・リオナンは自分の本音を言ってくれた。
ロシュ・リオナンにはアンジェリーナ・アルコンという恋人が出来た噂がお城全体に広まる前にゴック・シャルクは知っていた。
伝令になってロシュ・リオナンからアンジェリーナ・アルコンへ贈るプレゼントを伝えたり、自宅でパーティーを開き、ロシュがアンジェリーナと合えるようにするなど、以前から知っていたのだ。
そこまでやったのは、先王にゴマをすり、権力をつかむためではなかった。
ただ、ロシュ・リオナンの切ない表情に負けたからだった。
しかし、ゴック・シャルクは王妃や次の国王になれるカノスを忘れないように忠告していた。
そのたび、ロシュは絶望がこもった表情で顔を横に振っていたのだ。
ゴック・シャルクが先王の反応が分かったのは、偶然廊下でカノスと出会ってからだった。
彼は傲慢な顔で歩いていた。自分以外の全てを軽蔑する目差しはまるで悪魔のようだった。
丁寧に挨拶をする人々を見下ろす表情は、虫を見ているようだった。
ゴック・シャルクがロシュにカノス・リオナンにも愛情を見せるように助言するたびに
何故そんなに否定的な反応だったのかがすぐ分かった。
反面、ロシュとアンジェリーナの間で生まれた異腹兄弟フロイオン・アルコンはロシュに似ていた。
しかし先王とは違って、彼は自分が正しいと信じていることは最後まで進める強い面を持っていた。

「フロイオン・アルコンが国王になれたらよかった。
フロイオンならイグニスをロハン大陸で一番強い王国にすることが出来たはずだ。なのに…」


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