第一章 救援の重さ

第6話 1/2/3

不意に頭の中に直接届くような声が聞こえた。エドウィンは反射的に後ろを振り向いた。
振り向いたが、その独特なアクセントを持つ声の持ち主はそこにいない、ということを直勘で分かっていた。
しかし、緊張で身体が張り詰めていたので反射的に振り向いてしまったのだ。神殿の表や訓練場に集まっていた兵士達にはその声が聞こえなかったらしく、依然として小さな集団がそこかしこに出来、総司令官の殺害事件について話し合っていた。

エドウィンはその声がまた聞こえてくるのではないかとしばらく耳を傾けていたが、何の声も聞こえてこなかった。幻聴だったのか。彼は肩をすくめて騎士団の詰め所に入った。普段ならこの時間の詰め所は騎士達の声で騒がしい。しかし今はまるで廃墟のように静かだ。

彼の背後で重たくきしむ音を立ててドアが閉ざされた。更なる不安が彼を襲う。神経が極端に尖っているせいか、彼はたまに会議室としても使われるホールから聞こえる小さな足音に気付いた。
エドウィンは剣を握りなおし、音が聞こえてくる方へと足を運んだ。ホールのドアも硬く閉ざされていた。

ドアの取っ手を握ろうと、そっと手を伸ばした。彼の手が取っ手に届く前に、ドアはエドウィンの方へ滑るように開け放たれた。ドアの内側に身をもたれかけさせていた者がエドウィンの目の前に崩れ落ちる。死骸が放つ生臭い血の匂い。

彼はドアの隣の壁の方へ隠れた。足元に転んできた遺体はハウトだった。彼も神殿の中で吊られていたヴィクトル同様、胸に大きな穴が開けられ死んでいた。急襲を警戒しながらホールの奥を見たエドウィンはその光景に息を飲んだ。
グラット要塞の全騎士がホールに集まっていた。彼らは皆、騎士団の紋章が刻まれたプレートメイルや武器で武装していた。そして皆、ホールの奥に向けて跪いている。
そして彼らの前の方には全身から光を発している者が見えた。

目の前が真っ白になった。


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