第四章 隠された真実

第2話 1/2/3/4

「偉大なるドラゴンの末裔ドビアン… 
そして、偉大なるドラゴンの末裔キッシュ。
貴公たちの話は長老たちから聞いておる。
誰もが皆貴公たちが我々デカンでもっとも優秀な戦士であると言っておったのだ。」

「恐悦至極にございます、陛下。」

ドビアンとキッシュは頭を下げた。

「偉大なるドラゴンの末裔フェルデナント・ドン・エンドリアゴが
国王になってからもう50年も経っておる。
一生懸命勤めてきた。
どの種族にも負けないように。
しかし、フェルデナント・ドン・エンドリアゴはもう老いたのだ。
いくら鋭い刃であろうと、時間が経てば刃は鈍くなり、清い水もまた、たまっていればいつかは腐ってしまう。
現に我々デカンには新しい王が必要であると、フェルデナント・ドン・エンドリアゴは思うのだ。」

その言葉に驚いたキッシュは顔を上げる。フェルデナント・ドン・エンドリアゴが王座から降りると言うのか?
アルメネスからデカンが生まれた直後、彼らは全部ばらばらになって見慣れない環境に適応して生きていくため、
努力するしかなかった。
そのとき、強力なカリスマと優れたリーダーシップを持った一人の若者が、散らばったデカン族を集め、今の都であるレブデカでアルメネスの話をした。
自分はもちろん、デカンはドラゴンと神との戦争での最後の生存者であり、デカン族の母体であるドラゴン、アルメネスを忘れてはいけないと。
彼女が自分の最後の生命力を使ってデカン族を生み出したのは、死んだドラゴンたちの仇をうつためであり、一日でも早く神に対抗できるよう強くならないと、ロハン大陸の他の種族と同じく、神によって終末へ向かうしかないと言った。
その若者の名前はアガードだった。アガードの指揮のもとにデカン族は集まり、自分自身を守る準備に掛かり始めた。
いつの間にか国家の体制が調ってきたとき、誰もがアガードが王になるべきだと思った。王になったアガードは自らフェルデナント・ドン・エンドリアゴと改名した。
彼はデカン族の生きている歴史であり、英雄であった。
キッシュもまた、幼いころから国王を尊敬し、英雄だと思ってきた。
そんな彼が自ら王座から降りるとは!
誰もが信じがたい話だった。

「偉大なるドラゴンの末裔フェルデナント・ドン・エンドリアゴは王座を身内に渡すつもりはないのだ。
これからも永久にデカンの王は世襲でなく、長老と王によって選ばれるのであろう。
フェルデナント・ドン・エンドリアゴは数年前からこういう考えを長老たちに伝えておき、彼らに真の王たる若き戦士を推薦せよと頼んだ。
そして、貴公たち二人がここ呼ばれてきたのだよ。」

そう言った国王は大長老に振り向く。
大長老は国王に目礼して、キッシュとドビアンに説明を続けた。

「我々は国王陛下のお望みどおり、貴公たちを含めた全てのデカンの若者を審査し、
最終候補として貴公たち両名を王位候補者として選んだ。
これから1ヶ月間、両名はいろんな試験を受け、その結果によって次の王に選ばれるのだろう。
正々堂々と善意の競争をしてもらいたい。」

大長老の話しが終わったあと、キッシュとドビアンは国王に挨拶を述べて王城を出た。
キッシュはドビアンに何かを話そうとしたが、ドビアンは一人で素早く去ってしまった。混乱と苦い気持ちでキッシュはゆっくりと出口に向かう。
急に誰かが自分の裾を引っ張る気がして振り向いてみると、蒼い肌と赤い瞳の少女がキッシュの裾をこっそり握っていた。
キッシュは何も言わず、何のことだという顔で幼い少女を見つめる。
少女はそっと微笑んで彼に囁いた。

「偉大なるドラゴンの末裔ハエムが西の城門で待ってると言ってましたよ。」


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