第五章 レクイエム

第2話 1/2/3/4

ナトゥーは地下牢獄の冷たい壁にもたれたまま、ビクとも動かない。
幾多のことが頭の中に浮かんだが、集中しようとしたらどれも全て煙のように消えてしまった。
だが、胸の中に怒りだけが満ちていることだけは確かだった。

ダークエルフの国王であるカノス・リオナンへの怒り、第一宰相とは言え、国王の愛人にしか見えないジャドールへの怒り、自分をここへ送ったバタンへの怒り、そしてこんなにむざむざとダークエルフたちに連れ出され牢獄に閉じ込められた自分自身への怒り。
全ての憤りが胸の中から込み上げてくる。
爆発寸前のような気分だった。

「おい、そこのでっかいさんよ」

ナトゥーの耳に自分を呼んでいるようなささやきが聞こえてきたが、目をぎゅっと閉じて無視した。
それでもその囁きは諦めようとはせず、ナトゥーの耳に入ってくる。

「眠った振りしていてもワシの言葉が聞こえるのはわかっとるよ」

「…」

「ワシがハーフリングだからといって無視しとるのかね?」

ナトゥーは大きくため息をついてから、声が聞こえるところに顔を向ける。

「俺に何か用でもありますか?」

「まあ、同じ境遇に置かれた同士だし、親しくなろうじゃないか」

ばかばかしい答えに、ナトゥーはこのまま無視して寝たほうがましだと思った。

「それに…
おぬしが閉じ込められた本当の理由を教えようかと思ってな」


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