第五章 レクイエム

第2話 1/2/3/4

「ジャイアントのとある部隊の副隊長を一人送るくらいのことは秘密裏で送られた使者しかないだろうな」

「これは驚きましたね」

「ダークエルフ王家相手に商売をしていると、政治に目が利くんだよ」

「俺がここに閉じ込められた理由を知っていると…」

「おおよそ見当がついたからな。
で、おぬしの名は何かね?
相手から名を聞かれたら自分の名も教えるのがスジだろう?」

鋭く突っ込まれてきたベロベロの言葉に、ナトゥーはぎくっとして自分の名を教えた。

「ナトゥーか…
いい名前だ。
古代ロハン語で‘勇猛さ`を意味する。
おぬしにぴったりな名前だな」

ベロベロはただの宝石細工職人ではないような気がした。
ハーフリングらしく軽くて明快な口調ではあったが、彼の話の中には長い年月を過ごして悟った真理が溶け込まれているのが感じられる。

「ベロベロさん、ダークエルフの国王が俺を閉じ込めた理由はなんでしょうか」

「簡単だ。
欲張り大王のカノス・リオナンはジャイアントとの協約において優位を占めるつもりなのだよ」

「俺を閉じ込めて優位を取るとは、どういうことですか?
よく理解できませんが…」

「ドラットまで派遣されたダークエルフの使者たちに何か問題があったんじゃないか?
国境地域で誰かに襲われて死んでしまったとか…」

全てを目で見たように述べるベロベロの話に、ナトゥーはうなりを出した。

「ダークエルフはジャイアントにその責任を取れと言い、それでおぬしがここに使者として派遣されたのだろうね。
でもジャイアントがその事件とは何の関りもないというおぬしの話を聞いたカノス・リオナンは自分の計画が崩れないようおぬしをここに監禁したのだよ。
おぬしがここに来なかったことにすれば、ダークエルフの国王はこう言えるだろうな。
‘ジャイアント側はダークエルフの使節団の死に対して、遺憾はおろか何の立場も表明せず、これはジャイアント自ら、自分らの過ちを認めたのである`とね。
下手をするとダークエルフとの戦争にもなる状況だから、ジャイアントとしてはダークエルフの要求を受け入れ、一刻も早く協約を結ぶしかないだろう」


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