第五章 レクイエム

第2話 1/2/3/4

「でも、ダークエルフの使節団を襲撃したのは俺たちではありません!」

ベロベロは舌打ちした。

「当然だよ。
彼らを殺したのはダークエルフの国王だから」

ナトゥーは考えてもなかったベロベロの言葉に衝撃を受け、何も言えなかった。
ダークエルフの使者を殺したのが彼らの国王だったと?

「ワシが言っただろう?
カノス・リオナンは欲が深い人物だと」

「しかし…
ダークエルフの使者の代表だったフロイオン・アルコンは弟です。
どうやって兄が弟を…」

「おぬしはダークエルフの政治というのをまったく知らないのかね。
王になるためには家族も何もない。
母であれ、弟であれ、父であれ…
自分が王になるためなら遠慮なく剣を振り回すのがダークエルフだ。
同じ親から生まれた兄弟同士でも珍しくないことなのに、腹違いの兄弟くらいは…」

以前、深夜のエトン城の広場でフロイオンと一緒に散歩した時の話がナトゥーの頭に浮かぶ。

`やはりジャイアントは自国に対しての自負心が相当強いみたいですね。`

`どの種族だって自分の種族や国に対しての自負心は持っていますよ、フロイオン卿`

`さあ…
少なくともジャイアントはそうだということですね。`

その時はフロイオンがどういう意味でそんな風に言ったのかが分からなかった。
しかしベロベロの話を聞いて、フロイオンが何の意味でそういう話をしたのかがようやく理解できた。
誰も信じられないところで、一生周りの人を疑いながら生きるということは地獄と同じはずだ。
そんな地獄のようなところが、いくら自分の母国であるとしても、プライドを持つのは不可能だろう…

「フロイオン・アルコンに今現在王位継承権はないが、カノス・リオナンにとってはもっとも警戒するべき人物である。
自分の娘たちが王位に付く前に死ぬか、王になっても後継がいないのであれば、フロイオン・アルコンが王位継承権を持つことになるからな。
多分カノス・リオナンは今回のことを喜んでそのことを企んだのだろうね。
目障りの人物も消して、ジャイアントも協約せざるを得ないようにできるから」

「でもフロイオン・アルコン卿は生きています。
確実なことではないけど、ハーフリングの地に生きています」

「そうかい?
それで、おぬしはそれをダークエルフの国王に知らせたのかね?」

「当然じゃないですか?
彼が生きているのが分かれば、ダークエルフの使者を襲ったのが我々ではないということが明らかになりますから」

「これこれ…
おぬしはさっきのワシの話を聞いてもまだ分かってないのかね?
カノス・リオナンはフロイオン・アルコンを殺すはずだ。
そしておぬしが犯人だと濡れ衣を着せるだろう。
ダークエルフとの協約に反対したジャイアントの不純な輩が国王の弟を殺害したとね」


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