第六章 嵐の前夜

第3話 1/2/3/4/5

クレア工房に到着したトリアンは道を通る人たちにジェニスのことを聞いてみた。
ジェニスはクレア工房で唯一の司祭で彼女を知らない人はいなかったので、トリアンは思ったより簡単にジェニスの居場所が分かった。

ワイン色の空にはいつの間にか星が一つ二つ現れ始めた。
闇が深まって路地も静かになり、家の中で灯した明かりが窓から映る。
ジェニスの家もまた他の家と同じく窓から映る室内の光が明るい。
違うところを言えば、その光の中に祈りを捧げる暖かい声が混ぜていることだった。
ジェニスが詠じているのは`マレアの微笑`という祈りだった。
エルフの創造神であるマレアにいつも彼女の微笑と共にいられますようにという内容の祈り文はトリアンが魔法アカデミーにいた時、朝の食事時間に読んでいたものだったのでよく知っていた。

`だけど…
もう神は私たちを捨てたのに…
もう私たちの祈りを聞いてくれる神はいないのに…`

誰にも神がロハン大陸の種族を捨てたということを言わないという誓いをしていたので、トリアンはジェニスにもエルフの創造神であるマレアがエルフたちを捨てたということは話せなかった。
なんだかジェニスを騙すような気がして胸が痛んだが、仕方のない事だった。
何の役にもたたない祈りだとしても真心を尽くして祈りを捧げているジェニスを邪魔するわけにはいかなかったので、トリアンは祈りが終わるまで外で待つことにした。
その時、窓際に小さい顔が現れトリアンを見つめた。
トリアンが近づこうとしても、その顔は消えてしまった後だった。

`結婚ができない司祭のジェニスに子供がいるはずがないのに…
私、疲れているのかな?`

顔を上げて夜空の星でも見ながら目の疲れを取ろうとしていると玄関の扉が開かれてジェニスが現れた。


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