第六章 嵐の前夜

第7話 1/2/3/4

ゾナトがカイノンにハーフエルフの本拠地を据えてから、全大陸に離れ離れになっていたハーフエルフたちが一人、また一人と集ってきた。そして、今もまた新しいハーフエルフたちが自分たちの村を目指して旅をしている。

「カエール!」

カエールは自分を呼ぶ声に気がつくと、微笑みながら馬から飛び降りた。腰まで届くほどの金髪を揺らしながら走ってきた女の人はカエールの胸に飛び込んだ。カエールは彼女をぎゅっと抱きしめた。

「元気だった?アリエ」

カエールの胸に抱かれていた彼女は顔を上げ、微笑みながら言った。

「それは私のセリフだよ。最も危険な所にいたのはカエールでしょう」

「フィアンセが待っているのに、危険だからと言って死ぬわけにはいかないだろ」

アリエはにっこり笑って、カエールの頬にキスをした。

「荷物から片付けましょう。聞いてほしい話がいっぱいあるの」
「そうだと思ったよ。何の理由もなしに急にカイノンまで来てほしいって言うわけないよな」

カエールはアリエを抱き上げて馬に乗せると、馬を引きながら家へ向かった。家の前にあるポプラの木に馬を留めた後、二人は家の中に入った。カエールが荷物を片付けている間、アリエはキッチンで冷やしておいたビールの樽を出して大きなジョッキいっぱいにビールを注いだ。

「ほら、カエールの大好物、バーガンディのビールよ。今年初めて作られたビールなの」
「さすがアリエ。俺がこのビールをいくら飲みたかったか…ハーフリングたちの料理の腕は認めるが、やっぱりビールを作る腕は俺らに追いつく種族がいないらしい」

カエールはアリエが渡したビールを一気に飲み干した。満足げな表情のカエールを見ながらアリエが言った。

「心の準備は出来た?」
「ジョッキが特に大きかったから、覚悟はしてるけどな。いったい何があったんだ?外で警備員たちにも会ったけど、様子を見る限りだと、私たちの個人的な問題ではなさそうだったが…」

「そうよ。実は今回は私ではなくてゾナトが呼んだのよ。詳しい話はゾナトの部屋で聞く事になるでしょう。あなたが着いたというのも村人から聞いて知っているでしょうから、もういつものところに集まっているはずだよ」

カエールは分かったと首を縦に振ってから、アリエと一緒に家を出てゾナトの所へ向かった。大きな木の周りを半分ぐらい回ってしばらく歩いていくと紫と青緑色の布で屋根を覆った、少し大きめ建物が現れた。入口には大きな石弓を持って武装している近衛兵二人が立っていた。


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