第七章 破られた時間

第1話 1/2/3/4/5/6

一滴、二滴と落ちてきた雨粒はいつの間にか早いリズムで窓を叩き始めた。外気を入れるために開けていた窓は一つずつ閉じられ、町ではしゃいでいた子供たちの笑い声もおさまってきた。外出の準備をしていたタスカーは窓を叩く雨粒を見て、軽くため息をついてクローゼットから大きいマントを取り出した。

服が濡れないようにマントをよく正してリビングに下りると、暖炉の隣で寝ていた猫が走ってきてタスカーを見つめながらゴロンと泣き出した。タスカーは猫の頭を撫でてあげながら暖炉の上に掛けられた絵を愛情のこもった目で見つめた。

絵の中にはお互いを優しく抱き合っている3人の姿か描かれていた。タスカーと彼女の夫、そしてエミルだった。まるで彼らが返事でもするかのようにタスカーは手まで振りながら言った。

「行ってきます。晩ご飯の前には帰ってきますから安心してね」

大きく伸びをする猫を背にタスカーは家を出た。空は日を隠そうと決めたかのように濃い色の黒雲に覆われていた。道を歩きながらタスカーは、今回の会議が1ヶ月ぶりに開かれるということに気付き、小さくため息を出した。

もともと年に一回だった会議が何年か前から三ヶ月に1回になり、その後もますます頻繁になり、今回の会議は前回からまだ1ヶ月しか経っていない。全国を回る情報収集家たちと眉毛ミミズクク、松コケ、月見キノコ、銀角シカ部族の4大長老たちが集まる会議が頻繁に開かれるというのは決していいことではない。

エルフたちの最初の首都であるレゲンがモンスター達に侵略されたという便りが届いた時、ハーフリングたちは大陸全体に自分たちが全く知らない何かが起きているという事実に驚愕した。そして周辺の状況に関する情報を集めようと情報収集委員会を作った。

4大長老を中心に12名の情報収集家が所属した情報収集委員会は、年に一回ランベックの大神殿に集まって、それまでの情報を共有する会議を行った。そうして得られた情報を記録し、それを大神殿の記録室に保管、その記録室が飽和状態になった頃、情報収集委員会の研究所が完成し、大陸で一番大きい文献保管室がこの研究所の地下に用意されたのだ。


・次の節に進む
・次の話に進む
・次の章に進む
・前の章に戻る
・目次へ戻る