第七章 破られた時間

第1話 1/2/3/4/5/6

時間の流れによって、ハーフリングたちは自分たちがかつて知らなかった大陸内の各種族間の関係を知るようになり、他の国々が知らなかった様々な事実に関しても誰よりも早く知るようになった。

情報収集家たちの活動のおかげでハーフリングたちはカイノンに自分たちの独立した空間を持つハーフエルフたちを傭兵として雇用できるようになり、外交関係で均衡を保つことが出来た。もはや情報収集家たちと長老たちの会議は、リマの将来を左右するほど重要な意味を持っていた。そういう会議が頻繁に開かれるというのは、様々な出来事が起こっているということだった。そして、その出来事はほとんどが悪い知らせだった。

研究所が近くなると雨脚がどんどん強くなってきた。タスカーは研究所のドアを開け、中に入ってマントを脱ぎ、水気を切った。

「タスカー?」

振り向くと何百枚もありそうな紙を持った若いハーフリングと大長老イゴールが立っていた。

「大長老。ご無沙汰です」

「久しぶりだな、タスカー」

重い紙束を持ってためらう若いハーフリングに大長老は会議室に持っていくよう言った後、タスカーの方に歩いてきた。大長老は咳を何回かしてから静かに言った。

「エミルの話は聞いた。賢い子だったのに…孫を失ったようで心が痛む」

「はい…」

タスカーはようやく忘れかけていたエミルのことを思い出すと涙が出そうになってきた。タスカーの背中を軽く叩きながら大長老が慰めた。

「シルバの女神があの幼い霊魂を見守ってくださるはずだ」

返事の変わりにタスカーは首を静かに縦に振った。大長老と一緒に会議室に向かいながらタスカーは、どれほどの時間が経てば涙なしにエミルの話ができるのだろうかと思った。死ぬまでそんな日は来ないだろうと思った。


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