第七章 破られた時間

第10話 1/2/3/4

「変な所ですね。フクロウの鳴きも聞こえないですね。」

たいまつを持ち、衝車の一番前を歩いていた兵士がエドウィンの声に答えた。

「ここは始めてですか?」

「はい、始めてです」

「僕もこの森に入ったのは始めてですが、この辺までは来たことがあります。この近くの人にとってこの森は大事な場所だそうです」

「一筋の光も入らないのに、ですか?昼間でも危なさそうですが…」

「この地域の名産物が何かご存知ですか?あの有名な麦キノコです。一度は聞いたことがあるでしょう。僕は一度も食べたことがありませんが、きのこの王様とも呼ばれるほど特別な味だそうです。

おいしい麦キノコを栽培する為に一番重要な条件が、暗闇の中で長い時間をかけて育てることだそうです。だからこの森が、麦キノコの栽培には最高の場所だそうです」

「そうですが。麦キノコのおいしさが暗闇から生まれるってことは面白いですね」

後ろで衝車を引いていた兵士が話に入った。

「前聞いた話では、麦キノコ1個に金貨1枚だそうだぜ。なら、この近くの人はみんな大金持ちなのか?」

この近くまで来たことがあると言った兵士が、舌打ちをしながら話した。

「馬鹿なこというなよ。採ったキノコは城主に献上するんだぞ。知らなかったか?麦キノコは全て城主のもんだぞ。僕らみたいな一般人がキノコを売ろうとしたところを掴まれたらそのまま監獄行きだぜ。たぶん、お前にキノコの値段を教えてくれたやつももう監獄にいるんじゃない?」

「チェ!帰り道にキノコでも採って帰ろうかと思ったのに、これじゃ無理じゃないか!」

不満をこぼす兵士の言葉にみんな笑い出した。人々の笑い声が闇の森へ広がり、山彦になった笑い声がかすかに聞こえる頃、月光の光る平地に出た。果てしなく続きそうだった森からやっと抜け出したのだった。


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