第七章 破られた時間

第4話 1/2/3/4/5

「ジャドール・ラフドモン…」

フロイオンは窓の外から見える雲を見ながらつぶやいた。ライは、暗殺を依頼した人物の名前をジャドール・ラフドモンと言った。フロイオンはその名前をよく知っていた。彼女は現在、イグニスの第1宰相だった。

しかし、それより重要なことは彼女が、フロイオンの腹違いの兄でありイグニスの国王でもあるカノス・リオナンの情婦である事だった。ジャドール・ラフドモンがフロイオンの殺人を依頼したと言う事は、カノスがフロイオンを殺そうとしていると言う事と同じ意味だった。

兄が自分を注視しているのはよく知っていた。しかし、もはや次の王位継承者にカノスの長女であるエメリタ姫が決まった以上、兄に自分を殺す理由はなかった。それにも関わらず、兄が自分を殺そうとしている事実を知った。こんなにも身を潜めて気を付けていたのに、カノスがいまだに自分の死を求めているという事実は衝撃だった。

‘そんなにも私達を憎んでいたのか?’

ふと、カノスがどんな手を使ってでも自分を殺そうとしているのは、先王の恋人であった母親と自分に対する憎しみのせいだと思った。フロイオンの母、アンジェリーナ・アルコンに対する先王の愛はダークエルフの貴族であれば誰もが知っていた。彼女は貧しい貴族のお嬢さんだった。アンジェリーナ・アルコンは美貌の妖婦とはほど遠い、恥ずかしがりやの少女のような女性だった。そんな彼女が先王だったロシュ・リオナンの寵愛を一身に受けたのは、彼女が持っていた暖かい雰囲気があるからだった。

ロシュ・リオナンとアンジェリーナ・アルコンの初めての出会いがどんなものだったのか、ちゃんと知っている者はいなかった。国王が狩場でアンジェリーナに出会ったと言う噂、ある貴族の屋敷で開かられたパーティーでお互いに一目惚れしてしまったと言う噂もあった。しかしフロイオンが母親から直接聞いた話では、そのどちらでもなかった。

『その時、私は父上のお使いで初めてモントに訪問していたの。私が住んでいた所とは全く違う、巨大な都市に私の好奇心は刺激されたわよ。父上は馬車に乗るようと言っていたけれど、私は全てを自分の目で直接見て楽しみたかったから一日中歩き回ったよ。』


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