第七章 破られた時間

第6話 1/2/3/4/5/6

ベルゼン伯爵は馬の手綱を老いた馬子に渡すと、執事の男について行った。

しばらく歩いて行くと、美しい模様が刻まれた大理石の扉が客を迎えるために開けられているのが見えた。開けられている扉から室内を照らしている明かりが漏れていたが、人の気配はなかった。

「誰もいないですね」

グレイアムの言葉に執事が振り向きながら答えた。

「申し訳ございません。ご主人様からまもなく戦争が始まるから皆、お城から離れろという命令がございまして…
すべての下男、下女がここから立ち去りました。

私や老いた馬子のように死ぬ日だけを待っている老いぼれはくだらない命を1日でも延ばそうと城を離れるより、ご主人様の隣で最後を迎えたほうが価値のある事だと思ったので、ご主人様の命令に逆らって残っているのです」

2階への階段を上り、ある部屋の前で止まった執事は手にしていたランプの火を消して首を下げながら言った。

「ここでご主人様がお待ちになられています」

執事が開けてくれた扉の向こうに荒木を炊いているペチカとその前に置かれている大きい椅子に座っている一人の男の姿が見えた。グレイアムが部屋の中に入ると男は椅子から立って挨拶をした。

「ようこそ、ベルゼン伯爵」

青黒い光沢が漂う、高級な服装を端整に着ているシュタウフェン伯爵は気苦労が多かったのか疲れているようにみえたが、顔には平穏な笑みを浮かべていた。

白髪まじりの彼は自分の息子ぐらいのベルゼン伯爵に丁重に座ることを勧めた。


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