第七章 破られた時間

第6話 1/2/3/4/5/6

「遠路はるばる、ご苦労様です」

「いいえ。国王陛下の命令に従うのが当然です」

シュタウフェン伯爵は気持ちよさそうに笑いながら立ち上がってペチカの上に置いておいたグラスにお酒を注いだ。
薄く青いお酒をグラスに半分ぐらい注いで、グレイアムに渡しながら言った。

「時間に余裕があるなら食事でもご馳走できたのに残念ですね。今は麦キノコの食べごろなので是非ご馳走したかったのですが…」

「ここで採れる麦キノコは香りに優れていてアインホルンでも有名です。いつかその機会が来るといいですね」

グレイアムにグラスを渡して席についたシュタウフェン伯爵は乾杯をした。

「国王陛下のために!」

乾杯した後、シュタウフェン伯爵が静かに言った。

「伯爵がこんな遅くに私を訪ねて来た理由はよく分かっています。私も大地に血が流れるのは見たくありません。だが…」

言葉を止めてグラスの酒を一気に飲み干した後、シュタウフェン伯爵はベルゼン伯爵を見ながら強い口調で言った。

「父として、息子を死に追いやるわけにはいけません。最後に私を説得しに単身で来てくださった伯爵の広い心には感謝する気持ちでいっぱいですが、私は息子を諦められないという事をはっきりお伝えいたします」

グレイアムは黙って酒を飲み干して席から立った。

「シュタウフェン伯爵の意思はよく分かりました。どうしても…そうおっしゃるのであれば、私としては国王陛下の
命令に従うしかないということを理解してくださると信じています」

老いた伯爵は席から立ってグレイアムに握手の手を伸ばした。

「伯爵のような方が国王陛下の傍にいる事ですから安心して目を瞑ることができそうです。何卒、デル・ラゴスの繁栄が永遠に続くよう陛下の右腕となるようよろしくお願いいたします」

握手をしてからグレイアムは自分を迎えにきた執事と共に城をたった。シュタウフェン伯爵は窓側に立つと、若い伯爵が馬に乗って自分の城から離れていくのを見守った。グレイアムが離れると城門は硬く閉じられた。


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