第八章 夢へと繋がる鍵

第3話 1/2/3/4

シュタウフェン伯爵の死刑は夕方に行われることになった。息子の命のために全てを犠牲にする父親の死を、空も悲しむように黒灰色の雲で満ちていた。グレイアム・ベルゼン伯爵とバルタソン伯爵がここに着いてからシュタウフェン伯爵の城を占領し、伯爵が処刑されるまで5日がかかった。首都に行った伝令は、グレイアムにシュタウフェン伯爵の処刑内容を書いた国王の親書を持って戻ってきた。
グレイアムがシュタウフェン伯爵に伝えたら、彼は予想通りといわんばかりに静かに笑うだけだった。地下監獄でグレイアムが読む親書の内容を最後まで無言で聞いていたシュタウフェン伯爵が口を開いた。

「ベルゼン伯爵、一つお願いがある」

「はい…どうぞ…」

「俺と一緒に城に残っていた兵士には罪に問わないでください。すべての責任は俺にあります。彼らには罪がありません。俺一人で十分ではありませんか?」

「しかし、城を守備していた兵士たちは自ら残っていたのではないのですか?」

シュタウフェン伯爵は静かに、それでいてはっきりした強い口調で話した。

「いいえ。俺が最後まで城を守備するように命令したので、彼らは従っただけです」

グレイアムは何も言わずにシュタウフェン伯爵を見ていた。

「伯爵の意思…よく分かりました。今回の責任は全てシュタウフェン伯爵にあることにしておきます」

シュタウフェン伯爵からのお礼の言葉を後にしてグレイアムは階段を上った。兵士達がシュタウフェン伯爵の命令に従い城を守ったのは嘘だと知っている。国王の親書に城を守った兵士も全員処罰するように書いてあったらグレイアムとしても選択肢がないが、
シュタウフェン伯爵の命令であれば兵士たちの罪は問わないと親書には書いてあった。

初めてグレイアムにシュタウフェン伯爵を逮捕するように命令があった時、グレイアムの妹ビオレタは、グレイアムを非難した。

「お兄さんもひどいですね。自分の息子を守る為に全てをかけている人を逮捕するなんて…」

「しょうがない。国王陛下の命令なんだよ」

「国王陛下の命令が間違っていることを、お兄さんも知っているでしょう。陛下に申し上げてください。息子を守ろうとする父親を処罰することには従えないと。お兄さんはパペットではないじゃないですか!」

「なんて無礼なことを!
陛下の命令の是非を問えるのはロハ神だけである。我々は陛下の正義に従うだけだ」

ビオレタは顔を怒りで赤くしながら部屋から出た。そして、グレイアムが出発するまで一言も声をかけなかった。

‘国王陛下に忠誠を誓うべし’

亡くなられた父親の声を今もはっきりと覚えている。
病気だった父親がグレイアムの目を見つめながら最後に話した事は、‘何があっても国王陛下の命令に従え’だった。
ベルゼン家は代々‘忠臣’の家門だったので、どんな貴族であっても、ベルゼン家を軽く見たり脅かしたりすることはできない。王室でもベルゼン家の人だと言えば、絶対といえるほどの信頼をしてくれるのである。
現国王のビセン・レフ・デル=ラゴスが今回のことを命令した時の話でも、国王がベルゼン家を信頼しているかが分かるだろう。

「この仕事を任せられる人は君しかいない。私もシュタウフェン伯爵の今までの忠誠を考えるとそのまま知らない振りをしたい…しかし、私が国王である以上、感情で国家の秩序を乱すような真似はできない。命令を出す私にも確信がないのに、誰がこの命令に従うだろう…君だけにはこの私の苦しみを分かって欲しい」


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