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第七章 破られた時間 第1話-2 09.07.29
 


 

タスカーは言葉を失って新しい情報収集家たちを見つめた。

空いていた席が全て埋まると、会議室のドアが閉められた。

大長老が席から立って周りを見回してから口を開いた。

 

「お久しぶりです、皆さん。実は1ヶ月しか経ってないのですが…

今日ここに集まったのはこの間、皆さんが収集した情報を交換し、

リマがこれから進むべき道の方向を決めるためです」

 

大長老はしばらく口を止めて、深呼吸をしてから言葉を続けた。

 

「この間、情報収集家たちが苦労して集めた情報を元に

我々は現在、大陸の全体的な状況が把握できるようになりました。

国境を守っていたドラゴンがいなくなってから、

我々以外で7つの大種族が存在するということ。

その中で我々を含めた5種族は下位神を祀っていること。

そして現在、下位神たちから祈りに対する返事を聞いた種族は誰もいないということを…

まだどの種族でも、下位神がなぜ我々の祈りに答えてくれないのか、

なぜもう我々の前に姿を現してくれないのか、その理由は分かりません。

しかも、時間が経つにつれて、モンスターの数は増え、

我々に敵対する少数種族も増え、
人々の中では神が我々を見捨てたという噂も回っているようです。

今回、ヒューマンのグラット要塞壊滅事件からそういった噂がその勢いを増しています。

その件に関して、なにかしら情報を持っている方はいらっしゃいますか?」

 

タスカーの向こう側に座った髭の男が席から立ちながら言った。

 

「私がグラット要塞の周辺と周りの村から情報を集めました。」

 

「お、バーブムさん。ご無事なようで幸いです。それでどのような情報ですか?」

 

「デル・ラゴスでは大きいモンスターの襲撃により、
グラット要塞が崩壊したと発表されたようです。

ほとんどの村人も大神殿で発表した内容を信じているようでした。

グラット要塞が崩壊してから、周辺の村人達ほとんどがその場を離れ、

中心地であるアインホルンに向かっていました。

グラット要塞の内部に入る事は不可能に思えました。

出来る限り近づいてみると、大神殿の発表どおり、

近くの森からモンスターの痕跡が見つかりました」

 

ハルルは手を挙げながら言った。

 

「しかし、グラット要塞はデル・ラゴスの中でも最強と言われていた要塞です。

どうしてそんなに簡単に崩れてしまったのですか?」

 

「私もよくわかりませんが…大神殿からはそう発表したそうです。

おかしい所は、グラット要塞の唯一の生存者となった聖騎士がいるのに、

大神殿と聖騎士団ではそれが誰であるかまったく明かしていないようです」

 

タスカーはふっとエドウィンの事を思い出した。

 

‘旅行中、宿でグラット要塞が崩壊したという噂を聞いた時にも

エドウィンの顔色がよくなかった。

もしかすると、エドウィンがグラット要塞の唯一の生存者ではないかしら?’

 

「私が調べた情報はここまでです。」

 

言い終わったバーブムが席に座ると、大長老が頷きながら言った。

 

「大切な情報、ありがとうございます。

唯一の生存者に関して情報を隠しているというのは、

彼が見てはいけないものを目撃したからでしょう。

それ以上詳しい事情を調べるのは難しそうですね。

グラット要塞は我々の首都であるランベックからかなり離れてはいますけれど、安心はできません。

日に日に大勢が急変しているからです。
我々も、もしもの時のために準備をしなければいけないと思います」

 

大長老の言葉に銀角シカの長老であるバルコンが意見を提示した。

 

「現在、成人のハーフリング達に召喚技術を教えていますけれど、

今からはもっと若いハーフリング達にも召喚獣を召喚できるよう教えなければならないと思います」

 

周りがざわめき始めた。

大長老が静かにさせるために自分の腕を上げた。

皆が静かになると大長老はバルコンに聞いた。

 

「もっと若いハーフリングとはいくつぐらいのことをおっしゃるのですか?」

 

「我々、銀角シカの伝統によると8歳からハーフリングは召喚技術を身に付ける事が出来ます」

 

松コケの長老であるバホベンが心配げな顔で言った。

 

8歳は幼すぎるのでは…
召喚技術は自然の中の野生動物と契約を結ぶ事なのに、

8歳には厳しすぎないでしょうか?」

 

最初、召喚技術を使えたのは銀角シカ部族だけだった。

しかし、銀角シカの長老出身で大長老になったウルラフは、

20歳以上の全てのハーフリング達に召喚技術を身に付ける事を奨励した。

野生動物と召喚関係を結ぶというのは、

召喚者が召喚獣に自分の生命力を分けてあげることを意味する。

召喚者の生命力を得た召喚獣は、平凡な野生動物ではなくなり、

精霊体になって召喚者を守る事ができた。

 

「そうではありません。昔、我々の部族は毎年春になると、

新しく生まれた銀角シカとその年8歳になった幼いハーフリングの間に召喚契約を結びました。

幼いハーフリング達は自分の召喚獣である銀角シカを育てながら一緒に成長していきました。

子供の野生動物と召喚関係を結ぶことは、

召喚者に負担が少ないから8歳でも可能な事でした。

今も銀角シカの一部の家族達は伝統通り、

8歳になったハーフリングとその年の春に生まれた幼い銀角シカが召喚契約を結ぶようにしています。

私も8歳の頃、今の召喚獣と召喚契約を結びましたし、

私の息子も同じです。来年には孫達にもそうさせるつもりでした。

今は故人となったウルラフ大長老も、20歳以上としたのは、

当時は召喚技術になれていなかったハーフリング達にまず慣れてもらうためだったのでしょう。

そして、もっと若いハーフリング達に召喚獣を持たせようとする理由はもう一つあります」

 

皆の視線が銀角シカの長老に集中した。バルコンは深いため息をついて悲しい声で言った。

 

「自然が破壊されつつあります」
 

第7章2話もお楽しみに!
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