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第七章 破られた時間 第12話 09.10.21

 

 

親愛なる大神官リマ・ドルシル様、

 

ヴェーナを離れ、まだ1ヶ月しか経ってないというのに私は1年も経ったように感じます。

私は今クレア工房に泊まっています。

レゲンがモンスターの土足に踏みつけられた時、

私をヴェーナまで無事に連れて行ってくださった司祭の方に関して

話したことがありますけれど、覚えていらっしゃいますか?

その方を訪ねたところ、私がやらなければならないことを見つけたので、

少しの間ここに留まる事になりました。

私はここで傷ついた幼い魂を治癒しています。

私がこの可愛そうな魂を発見した時、幼少期に起こりうる

一番悲劇的な事件を経験したせいで、暗い深淵の中でうずくまっていました。

 

私の旅がどれほど大きな意味を持っているかはよく分かっています。

しかし、私はこの少女の魂がますます深い奈落に落ちて行くのを、

見てみぬ振りをするのは出来なかったので、ここで少し時間を割いているのです。

ここに到着した次の日から私は彼女に少しずつ近寄り始めました。

私に背を向ける彼女を暖かい目で見つめてあげて、

返事のない彼女に私の小さい頃の話をしてあげながら彼女の心が開くのを待っていました。

 

それは不思議な経験でした。

アカデミーの本で学問として接していた治癒の技術を直接行動に移しながら、

私の自身も治癒されていくような気持ちになりました。

そういった私の思いに10日経った日、少女は応えてくれました。

眠る前、彼女の横で話をしていた私に彼女が静かに言ってくれました。

「ありがとう」と。聞こえるような、聞こえないような小さな声でしたが、

私はきちんと聞きました。私はその夜、久々に女神マレア様に祈りました。

あの方がもう私たちの祈りを聞いてないということは

誰よりもよく分かっていたけれど、祈りたかったのです。

ありがとうございますと。この幼い魂に光が差し込むようにしてくださってありがとうございますと。

彼女が再び自分の声を出せるようになってから、

私は彼女の魂のかすかな影を全て消すために努力しています。

もしかすると、その影は永遠に消えないかもしれないけれど、

私は最後まで最善を尽くしたいと思います。

私の行動を理解してくださると信じています。

ここを離れる時、もう一度連絡いたします。

どうか平穏な日々を過ごせますように。

クレア工房から、

トリアン・ファベルより。

 

しかし、手紙が大神官リマ・ドルシルに届く前に、

トリアンはクレア工房を離れ、アインホルンに向かうことになった。

ある日見た夢がトリアンの重い足を運ばせたのだ。

それは凄惨で絶望的な夢だった。空は黒雲で満ちていて、

ヒューマンとエルフたちの悲鳴が所々であがっていた。

城壁で囲まれた小さい都市は死の影から逃れようと必死になっていた。

城外に向かって絶え間なく弓を打ったが、敵は少しも減らなかった。

敵が誰であるかは重要ではなった。

重要なのは彼らが生きているみんなを殺すと言う事実だった。

南の城壁にヒビが入り始めた。

魔法師達は残っている力を振り絞って防御魔法をかけた。

しかし、敵は多すぎて強すぎた。

魔法で作られた防御壁が粉々になりながら城壁が崩れ落ちた。

ぼやけた土ほこりの中から血に飢えたオークたちの姿が現れた。

 

「だめ!」

 

恐怖と衝撃で叫びながら目を開けると、

窓の向こうからかすかに光っている月が見えた。

トリアンはあまりにも生々しい夢に呆然として体を起こすことすらできず、

しばらく目だけを開いて横になっていた。

胸はざわめいて強く握った掌には汗がたまっていた。

半分ぐらい開いている窓から入ってきた冷たい風がトリアンの鼻の先をなでた。

風に隠れていた甘い花の香りが緊張した体を和らげた。

胸のざわめきが落ち着くと、トリアンは体を起こしてベッドに腰をかけた。

 

‘一体なんだろう?どこで起きたんだろう?’

 

頭が混乱した。夢と言うにはあまりにもたくさんのものを感じた。

しかも初めて見る場面なのにどこか見たことのあるような気がした。

 

‘もし私が見たのが未来ならば…’

 

トリアンは首を左右に振った、考えるだけで胸がしびれてきた。

もう一度眠ってしまったらまた同じ夢を見る気がして眠れなかった。

ぼうっと窓の向こうの丸い月を見つめた。

流れる雲と踊っている白い月は永遠のようだった。

トリアンは気配を感じて振り向いたらオルネラがドアを少し開けて自分を見つめていた。

 

「お入りなさい。」

 

トリアンが手招きするとオルネラはすっと走ってきてトリアンに抱きついた。

トリアンは自分のベッドの上にオルネラを横にさせて布団をかけてあげた。

 

「なんで起きたの?」

 

オルネラはトリアンを見つめながら囁いた。

 

「トリアンが泣いていたから」

 

トリアンは微笑みながらオルネラの額に口付けした。

 

「私もたまには怖い夢を見るときがあるから。

今夜はオルネラが私のそばにいてくれる?」

 

オルネラは少しうれしそうな顔で首を縦に振ってトリアンの懐に入り込んだ。

トリアンはオルネラを抱きしめてあげた。

もう一度、夜風が花の香りと共に窓から入ってきたとき、

オルネラはぐっすりねむってしまった。トリアンはオルネラの顔を見つめながらつぶやいた。

 

「もう私がいなくてもあなたの心では光がどんどん育つでしょう」 

 

第7章13話もお楽しみに!
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