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第八章 夢へと繋がる鍵 11話 10.01.27

エレナへ

 

この手紙をあなたが読んでいる時には、俺はもう死んでいることだろう。

どうかこの手紙があなたの手まで無事に届けるように…

 

今俺が手紙を書いている場所は、ダークエルフの首都であるモントの地下監獄だ。

俺はイグニスに着いてから、注文した人々に製品を渡した。

みんな俺が作ったもので喜んでくれたが、一人だけが不満を述べた。

イグニス第1宰相であるジャドル・ラフドモンというダークエルフだった。

 

彼女は俺が作った製品に飾られている宝石が小さいと不満を述べた。

俺は彼女が注文した通り作ったのに、けちをつけながら代金は払わずに

新しく作ってくるように命令する彼女の傲慢な態度に腹が立った。

俺は彼女の要求を断って立ち去ろうとしたが、

その瞬間ダークエルフの警備兵達に囲まれ、監獄に閉じ込められてしまった。

手紙で説明している今も笑うしかない。

 

地下監獄に閉じ込められてから、もう100日が経っている。

その間、口が軽いダークエルフの警備兵たちの会話を聞きながら重要なことに気が付いた。

これは俺が得た情報だ。この手紙を読んだら、すぐ大長老に連絡してくれ。

この情報はハーフリングたちの未来だけではなく、ロハン大陸の全種族の未来がかかっている。

 

今ダークエルフの国王であるカノス・リオナンは大陸全土を支配する野望を持っているそうだ。

貴族と王室の戦いが続いていたので、戦争の準備をする暇が無かったのだろう。

しかし、イグニスの上流層と下流層の不仲は激しく

いつ爆発するか分からない火薬庫みたいなものだった。

ほんの小さな火種さえあれば、下流層のダークエルフ達は一瞬で暴動を起こす状況だった。

この状況をごまかすためにもダークエルフ達には戦争が必要になった。

カノス・リオナンはジャイアントと秘密契約を結ぼうとしているようだ。

いや確実に動いていると思う。

 

ジャイアントがダークエルフ達と同盟路線を選ぶかどうかはまだ分からないが、

もし同盟になるとしたら、最初に攻撃されるのは我々ハーフリングたちだろう。

リマの豊富な資源が戦争の資本になるだろう。

もし我々がダークエルフとジャイアントの連合攻撃に負けてしまうと、

次はデル・ラゴス、ヴィア・マレアになるだろう。

全種族を征服したら、ダークエルフはジャイアントまで攻撃すると思う。

全種族を征服することは無理かもしれないが、リマがイグニスの攻撃を受けることは事実だろう。

 

愛する我が孫よ。

俺の命と交換したこの情報で、ハーフリングの未来が安全になることだけを祈っておる。

俺の死が無駄にならないようにして欲しい。

遠くの空からシルバ女神と一緒にあなたを見守る。

 
                                                                                                     
ベロベロより


 

「この手紙はどうやってお前が手に入れることが出来たのだ?」

 

大長老が震える声で聞いた。

 

「カイノンに一人のジャイアントが私を訪ねてきました。」

 

「ジャイアントが?」


「はい。彼は私にベロベロ長老から頼まれたといいながら、小さい巻物を渡してくれました。

あそこには三日月の知恵を探せと書いてありました」

 

「暗号だね。意味はわかっていたのか?」

 

「ご存知だと思いますが、ベロベロさんは私の祖父です。

子供の頃、爺さんが教えてくれた詩があります。

ラムジ風まくらという詩にはこのような文句があります。

白い眉毛のように見える三日月がかかっている夜には、賢い年寄りフクロウが話を始める

よく言ってくれたので覚えていました。

三日月の知恵を探せは、白い眉毛を持っている灰色のフクロウを呼ぶという意味です」

 

「白い眉毛の灰色のフクロウはベロベロが長老の業務に使っていたフクロウじゃないか?

どうしてそいつに連絡できた?」

 

エレナは少し迷うように見えたが、泣き声で説明をし始めた。

 

「爺さんが旅立つ前日、私にフクロウを呼び出す笛を渡してくれました。

もしかして何かがあった時を考えて、私に預けておくと…

もし何かあったら、次の長老に渡して欲しいと…」

 

「だったら、何で次の長老のナカウに渡してなかった?」

 

「私は…爺さんが…ベロベロ長老が亡くなったと受け入れる事が出来ませんでした。

いつかご無事に帰ると…その時、この笛を渡すつもりでした」

 

大長老は深くため息をはきながら、自分の椅子に座った。

彼は何も言わずに遺書を見つめていた。混乱しているようにも見えた。

 

「複雑だな…。これを何処から解決できるのかは難しい。」

 

「まず他の長老達を集めて、意見を聞いたほうがいいじゃないですか?」

 

「そうだね。ベロベロが手紙に書いたように、

本当にダークエルフとジャイアントは秘密契約を進めているのだろうか?」

 

エレナの声が高くなった。


「ベロベロさんの思いが大げさだと思っていますか?彼は理性的な方です。」

 

「落ち着いて。私もベロベロさんの考えに間違いはないと思っている。

ただ、先日の情報収集委員会でもこのような話をしている人はいなかった。

あなたも分かるでしょう。我らの情報収集能力については」

 

「ベロベロさんの考えには証拠があります」

 

「本当なのか?」

 

エレナは頷きながら、懐の中からナトゥーから頼まれたフロイオンへの手紙を広げて見せた。

 

「これは、ベロベロさんの暗号文を伝えてくれたジャイアントが書いたものです。

彼はプリア町に閉じ込められているフロイオン・アルコンというダークエルフにこの手紙を渡して欲しいそうです」

 

大長老はエレナが机の上に広げておいた手紙を慎重に読んでいた。

 

フロイオンアルコン卿へ。この手紙をお読みになりましたら、即時カイノンに向かってください。

何があってもイグニスに戻ってはいけません。ナトゥーから

 

「フロイオン・アルコン卿とは…」

 

「はい。イグニス国王であるカノス・リオナンの義理の兄弟です。

彼は第1王位継承者のはずなのに、ジャイアントの人が彼の命について危険さを

連絡することはおかしくないですか?

ジャイアントとダークエルフの仲が悪いのは、誰もが知っていることじゃないですか?

ベロベロさんの話通り、ジャイアントとダークエルフが秘密契約を進めていることは間違いないと思います。

もしかしてもう秘密契約が結ばれ、共同軍事作戦を練っている可能性もないとはいえないでしょう」

 

大長老の顔が固くなり、喚き声を出した。

しばらく高まっていた彼は乾いた声で言った。

 

「フロイオン・アルコン卿を人質にする必要がある」

 

 

 

 

第8章12話もお楽しみに!
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