目の前でジュリエットの死を目撃した後、ショックで倒れたフロイオンの意識は何日も戻らず、
命に関わる状態になっていた。フロイオンの家族は介護に最善を尽くしたが、フロイオンの意識は戻らなかった。
1ヶ月後、ようやく意識が戻ったが、以前の陽気さが無くなっていた。
一日中ジュリエットが亡くなった部屋のバルコニーに立ち、
彼女の灰が入っている袋を握ったままぼっと窓の外を見るだけだった。
ただその毎日を繰り返すだけだった。
 
「フロイオンは少しずつ死に近づいている。」
 
バルコニーに座っているフロイオンを見ていたグベルマンがジオバンニに話をした。
 
「子供の頃目の前で自分の母親が兵士に逮捕される場面を目撃した時も同じだったな。
ある日突然家を出て何日か経った後戻ってこなかったが、戻った時には普通に戻っていた…
今回はそのまま死んでしまいそうな予感がする」
 
「どうにかしなくちゃ…かわいそうなアンジェリーナのためにも、フロイオンを死なせるわけにはいけません」
 
「わしの力では無理だ…今誰が声をかけても聞こえないだろう…」
 
深いため息を吐きながらグベルマンがつぶやいた。
 
「私が…フロイオン・アルコン様と話をしてみても大丈夫ですか?」
 
いきなり声を聞こえてきて二人が振り向いたら、ジュリエットの父親である、ドミニク・エリアル伯爵が立っていた。
 
「いらっしゃいましたか。エリアル伯爵。娘さんの事は非常に残念でございます」
 
エリアル伯爵は首を横に振りながら話をした。
 
「死んだ人は苦しみがないです。苦しむのはフロイオン・アルコン様のように残っている人々でしょう。」
 
「フロイオンに会いにきましたら、私たちは席をはずします。
どうか伯爵の話で少しでもフロイオンが元の姿を取り戻して欲しいですね」
 
グベルマンとジオバンニはエリアル伯爵を残して部屋を出た。
エリアル伯爵は静かにフロイオンに近づいた。
 
「こんにちは。フロイオン・アルコン様」
 
伯爵の挨拶にもフロイオンは反応がなかった。
 
「失礼ですが、隣の席に座らせていただきます」
 
フロイオンの隣にある椅子に腰をかけた伯爵は、何回か空せきをしてからようやく話し始めた。
 
「ジュリエットが亡くなってから始めてですね。遅くなりましたことをお許しください」
 
フロイオンは空を見上げるだけで、何の反応もなかった。
 
「娘は…生まれる時自分の母親を失ってしました。
そのせいかジュリエットは子供のごろから寂しがりやでした。
いつも元気よく過ごしているように見えても、時々何かむなしい顔をしていましたが、
亡くなる前までは幸せに満ちた充実な顔をしていました。フロイオン様のお陰だと思います。
そんな幸せなジュリエットは初めてみました。娘の人生の中で一番幸せな瞬間だったと思います。
一番幸せで輝いている瞬間だったので、娘は幸せの中で死んだと思います。
残った私たちは…大事にしている人を失ってしまった私たちは違いますね…
私も最愛の妻を失ってしまったので、その辛さをよく分かっています。
でも亡くなった人を心の中でずっと残してはいけません。娘の魂を行かせてください。
ジュリエットも望んでいると思います。フロイオンさんがこんなに心を痛めているところをみて
娘も悲しんでいると思います。」
 
フロイオンは、以前として何の反応も見えなかった。
エリアル伯爵は深いため息を吐いて椅子から立ち上がった。
その時、どこか遠くから力の無い声が聞こえてきた。
 
「私の…私のせいで、ジュリエットが…亡くなりました…私のせい…です」
 
エリアル伯爵はまた椅子に腰をかけ、フロイオンの手を握った。
 
「違います。ジュリエットが亡くなったのはフロイオン様のせいではありません。
娘の運命だったと思います。ジュリエットに授けられた時間がそこまでだったわけです」
 
「しかし…私に会わなかったら…ジュリエットは今も生きていたはずです」
 
石像のように何の反応も見せなかった、フロイオンの目から波が流れてきた。
 
「フロイオン・アルコン様と出会えずに生きていて何の意味があるでしょうか?
ジュリエットはフロイオン・アルコン様と出会って初めて幸せになり、輝くことが出来ました」
 
フロイオンはようやく声を出して泣き始めた。
 
「ジュリエットが…ジュリエットに会いたいです。悲しくて胸がいたいです…」
 
エリアル伯爵はフロイオンの背中を優しくなでながら慰めた。
 
「これ以上悲しむとジュリエットも悲しくなります。どうかもう悲しまないでください」
 
伯爵に慰められながら嗚咽していたフロイオンは、力を使いきったのようにそのまま眠ってしまった。
伯爵は、タイミングよく部屋に戻ってきたグベルマンとジオバンニにフロイオンを預けた。
そして死んだ娘のスタッフをフロイオンの手元において帰った。
翌日の朝になってようやく目がさめたフロイオンは、自分の手元に置かれているスタッフを見て
ジュリエットのものだと分かったのか、スタッフを抱きしめた。
 
「ライ」
 
フロイオンが名前を呼ぶとどこからかライが現れた。
 
「ちょっと旅に出ます」
 
「何処に行きますか?」
 
「ジュリエットが行きたかった場所があります。
ラウケ神殿修道院…」